学校のビオトープに深さ約10cm、直径20〜30cmの池(容器に水を入れたもの)があります。中には少量の土や落ち葉があります
(何グラムとか厚さといったことは具体的にはわかりません)。これを池1とします。もう1つ、周囲約30cm×60cm、深さ約20cmの池(衣装ケースを使用)があります。 中には水草と多量のピートモスが入っています。これを池2とします。池1に現れたのはただカの幼虫だけです。冬に凍った池2を探ると カ・ユスリカの幼虫とコミズムシ類が出ました。濁った水だったらハナアブや近い種の幼虫が現れるのではと思うのですが、 何か産卵場所に条件があるのでしょうか。成虫のハナアブ、シマハナアブ、オオハナアブは何度かビオトープの花に来ています。
レスがないので門外漢ですが失礼します。
水深が深いと幼虫の生育環境に適さない可能性が考えられます。 オナガウジの尻尾のような部分は呼吸器官で、この長さは最も伸びたときで15cm(WikipediaでRat-tailed maggotの項)と記載があります。種によって最大長さは異なっていると思いますが、いずれにしろオナガウジが水底に潜んで長くこの呼吸器を伸ばして水面まで届くことが必要ではないかと推察されます。もちろん壁面に張り付き呼吸することも考えられますが安定していないと思います。 池2は水深20cmと記載されていますので、やや深すぎるのかもしれません。 私は、途上国で下水処理施設として使われている酸化安定池(Waste Stabilization Ponds)での蚊の発生防止法として、水深を深く保つことと日陰をつくらないことによって、池が蚊の発生源にならないという文献を読んだことがあります。ボウフラの生育環境で水深が重要な要素だとすると、オナガウジはその形態上、水深が一層問題ではないかと思いました。 なお「蚊」の幼虫(ボウフラ)の生育環境については非常に興味があるので、どなたか水深との関係について文献等の情報があれば教えていたがければ有難く思います。(別に質問すべきですが) もう1つの影響因子として、池の表面積があるかもしれません。ハナアブではないのですが蚊の幼虫の生息環境(=成虫の好む産卵箇所)では、面積が小さい水溜りほど、蚊の幼虫の数が多いという研究結果も見つけました。 http://www.sove.org/Journal%20PDF/December%202003/Lester%20and%20Pike%2003-07.pdf これは、蚊の幼虫の天敵との関係で、天敵の好まない環境に卵を生もうとする行動と関係しているようです。 なお新屋さんのご質問に触発されて、ネットでハナアブの幼虫の情報を探してみたら極めて面白い生物で、私も興味が出てきました。
深すぎなのですか。浮かんでしのぐと思っていましたが這うのみなんですね。
カは面積が小さい方がいるんですね。確かに池2にはわずかにしかいませんでしたし、10cm×10cm、水深10cm未満の 箱にはいっぱい出ました。一般家庭に、そうした浅い濁った水たまりってあるのでしょうか…うちにはないです。
新屋様.
詳しくは判りませんが,岸辺の有無も関係するかも知れません. 自宅の池は,深さ20-25cm程ですが,時折オナガウジがいます.(大概,浅い岸辺に近い場所にいますが,時折深い場所で浮くようにしていることもあります.) 親を観察していると,岸辺をうろうろしていますので,適度な場所で産卵しているのだと思われます. 野外での観察でも,シマハナアブやキョウコシマハナアブ,ナミハナアブは湿地の泥っぽいところで産卵しています. あるいは,親が安定して止まれる場所が必要なのかもれません. 産卵の足場となるだけではなく,幼虫が蛹化するために池を脱出するためにも親が止まれるような爪が引っ掛かる斜面が必要です. なお,カの場合は,直接水に産卵し,蛹から直接空中に飛び出る生活をするので,このような足場は不要なようです.
なぜ少し大き目の池2にはハナアブの幼虫がいないのかを考えてみました。
池2には、ユスリカの幼虫等がいたと報告されています。これらの虫に食われた可能性も考えられます。 ユスリカの幼虫は手元にある"The Chironomidae; The biology and ecology of non-biting midges"を見ると、雑食性で、他の昆虫の幼虫を襲って食べることもあると書いてあります。
池1には岸がないです。2は衣装ケースのふちまでは土に埋まっていないのでヤゴなどは上陸できないと思われます。オナガウジは
ナメクジのように腹ではりつけ…なさそうですね。成虫が産卵するのは近くの土でできるとして、幼虫が水に入ることは できなさそうです。なるほどこれではいけませんね。 ユスリカの幼虫って獰猛なものなんですか!?一般的には有機物とかを食べる感じですが、モンユスリカ亜科は肉食だそうですね。 池2から羽に紋のある成虫は発生しています。また、ボウフラの頭も見つかっています… 調べてみると卵はゼリーに包まれているんですね。水深3〜4cm、水槽の側面(もちろん内側です)にサカマキガイの卵みたいなものが ありましたがユスリカのものかもしれません。泥まゆに入った幼虫を見ていますが珍しいものではないそうです。
新屋様
実は私も似た問題で悩んでいます。 私の場合は蚊です。 庭のテーブルの上に、3つ小さな容器を並べています。 はじめは空でした。そのうち雨が降り、庭の木からは落ち葉が供給され、ひとつの小さな世界が出来上がります。しばらく雨が降らないと干上がることもあります。こんな状態で1年半以上も放置し、どのような生物が発生するのか観察しています。 当然、ボウフラは湧くだろうと期待していたのですが、さっぱりボウフラの発生はありません。庭には蚊がいないわけではありません。むしろ夏などいやになるほど蚊が飛び回っています。しかし、私の観察している小さな容器には全くボウフラが出ないのです。 容器は、白いマグカップ、ジャムの入っていたガラス瓶、いらなくなったお茶碗です。 蜂などの死骸(おぼれたようだ)はありますが、肉眼で見える大きさの生きた生物はこの3つの容器に発生しません。 その理由をあれこれ考えてたのですが、今朝「蚊の不思議」という本を読んでいてp98に「産卵容器に対する嗜好性」という内容が記載されており、容器の色による蚊の産卵の差があるという話が出ていました。 蚊は古タイヤの小さな水たまりにはよく産卵しここが諸外国でマラリヤ蚊や黄熱病の蚊の発生源になったているという話をよく読みます。 確かに、私の庭の容器は白や明るい色ですので、この色の問題があったのかもしれないと、気が付きました。 今度は、黒っぽい色の容器で試してみようと思っています。 新屋さんの問題も産卵場所に対する成虫の嗜好の差が反映されているのかもしれず、色も一つのファクターかもしれません。
池1はビニールで白っぽいし、池2も透明な白ですが、水は黒っぽいです。タイヤの水たまりで増えるというのは
聞いたことがありますが、そんなところで栄養分が足りるとは… 風で飛んできた葉とか死がいとかが栄養源でしょうか。 カなどがどういう条件で産卵するかということは、あまり調べられていないのでしょうか。意外と近くにふしぎがあるものですね。 |
原稿執筆中に,原記載を読みたくなってネットで調べていたら,なんとネットで読むことが出来ました.
Walker, F. 1852 Diptera. In Insecta Saundersiana: or characters of undescribed insects in thecollection of William Wilson Saunders, Esq., F. R. S., etc. London, 1:1-474 http://books.google.co.jp/books?id=V9ooAAAAYAAJ&dq=Walker+Insecta+Saundersiana+Diptera&printsec=frontcover&source=bl&ots=qGzaTlxrR0&sig=5VBCZNzIuBLUJ4u4aGOsOVx8b3k&hl=ja&sa=X&oi=book_result&resnum=3&ct=result Googleがネットで本を見られるようにしていたのは知っていましたが,こんな専門的な本も見られるようになっていたとは驚きです. 良い時代になりました(~o~) P.S. $200出して買おうと思っていたので助かりました;^_^)
茨城_市毛様
早速、当方もダウンロードしました。全文ダウンロードできるのは初めてでした。 Google Scholar http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja も、学術文献を能率よく検索でき便利です。 |
ヨコジマオオハリバエの顔写真です。
ある種のヤドリバエ(と一部のハナバエ?)の顔は、このヨコジマオオハリバエのように、触角の下から前額−顴溝に沿って顔板が外れてしまった様になっているものがあります。一体、この部分はどうなっているのでしょうか。 妙な問い合わせですが、宜しく御教示下さい。
アーチャーン様,超かめレスです;^_^)
丁度購入した本に,額嚢が膨らんだ状態の図がありました. 自分が考えていた以上に,顔が開くようです. 出典は,The European Families of the Dipteraです.
茨城_市毛様:
額嚢がこんなに長く伸びるとは知りませんでした。 触角の下側が殆ど無構造に見えるのは、額嚢が伸びるときに折り畳まれ、額嚢が膨らみやすくする為なのでしょうか。 The European Families of the Diptera、前縁脈の切目を殆ど指標にしていないとのこと。私には有用そうなので、注文しました。NHBSは高いので、Abebooks経由です。 私は「何でも屋」なので、その前に、Borror and Delongs's Introduction to the Study of Insects と言うのをAmazon.co.jpで買いました(日本で売られている方がずっと安かったので)。Dipteraはまだ検索していませんが、チャタテムシの検索ではかなり役に立ちました。Dipteraに関しては、全体(検索表と科の説明)で約70ページあります。必要に応じて頭部胸部の構造や剛毛についての図版が沢山あって、初心者には使い安そうに見えます。
アーチャーン様.
確かにNHBSは高いです. 私は,PEMBERLEY Natural History BOOKSを良く利用しています.送料もInternational Economy Airにして節約しています.http://www.pembooks.demon.co.uk/ 価格体系が日本と異なっているのは理解しているつもりですが,同じイギリス国内でここまで違うと別の本ではないかと戸惑います. Introduction to the Study of Insectsは懐かしい本です.現在は第7版になっているのですね. かなり昔に,TTS昆虫図書で前波さんに薦められて買いました.確か,初めて買った海外の昆虫学書です.
茨城_市毛様:
確かにPEMBERLEY Natural History BOOKSは安いですね。ただ、残念ながら、私の必要としている東南アジア関係(特に植物)は少ない様です。 |
双翅目に興味を持ち、いくつかの本を読んだりネットで資料を探したりするうちに、自分の専門分野とは異なる状況に気がつき、その違いに大いなる興味を持ちました。
双翅目についてたとえば、「中国蠅類」のような分厚い本が出ています。これは中国で出版された本ですが、中国はこのような双翅目について(ひょとすると昆虫全般について)、日本よりも進んでいると理解していいのでしょうか? 中国がこのような分野について研究が進んでいるとすると、それはなぜなのでしょうか?農業や衛生面から実用的な意味があり研究が進んでいるのでしょうか?国が特別の目的で研究促進していると考えるべきなのでしょうか? そもそも、双翅目の研究は、純粋に博物学的な興味以外では、どのような目的で行われているのでしょうか? (農作物の害虫や衛生昆虫としては、研究目的がはっきりしています。またショウジョウバエは遺伝子の研究のための対象として取り上げられている。)
赤塚カケス様.
私の憶測としては,分類も科学研究ですから,国力誇示的な考えがあるのではないでしょうか. 中国の場合,文化大革命などで科学が停滞していましたので,追いつき追い越せ的なパワーもあると思います. また,中国でのタイプ標本の貸出禁止や昆虫標本の国外持出禁止などの話を聞く限り,標本=国有財産となっているようです. ロシア(ソ連)はかなり分類が進んでいるようで,下記のようなシリーズが多数出版されており,重要文献となっています. ・Fauna of Russia (Fauna of U.S.S.R) ・Keys to the insects of the European part of the USSR ・Keys to the Insects of the Russian Far East 旧ソ連が崩壊してからは,研究の環境(予算等)がかなり悪化したようですが,それでも黙々と色々な論文が出てきます.
茨城_市毛様
レスを頂き有難うございます。 「中国蠅類」まだ入手していないのですが、「書虫」に出ているこの本の写真を見ると凄い情報量のようで、中国の凄さというものを感じます。ただ紙質が悪い、とこぼされている書き込みを見つけたので、せっかくの本が紙質で損なわれているとすれば残念です(途上国は似たようなもので、たとえばタイで出版された本は表紙は立派なのですが、中の紙は藁半紙のような紙で出来たものがあり、途上国の出版事情にその国の方に同情してしまいます。タイ人はあまり本を読まないので出版が成り立ち難いようです)。 昔は、私の分野(土木工学)でも、ロシア語やドイツ語で多数の論文が出されていて、古い先生方の中には、数ヶ国語を読んでおられた方があるようですが、今はほとんど英語で用が足りるようになり、便利になりました。 昆虫の分野は、中国やロシアが進んでいるというのは、私には有る意味で驚きでした。日本もこのような分野(基礎科学)にももっとお金が入ってきて、専門家が育つ仕組みを考えないと国力という点からも心配です。ポスドク問題と併せて、基礎科学の充実が必要ですね。
赤塚カケス様.
「中国蠅類」については,本の厚さを抑えるためか,結構薄い紙が使用されています.紙質が悪いのか,めくった拍子に破けることが時折あります(^_^;) 白色度は悪くないのです.コピーするとバッチリ裏写りしますが・・・. 中国の本は何冊も持っていますが,こんなデリケートな紙は初めてです.
赤塚カケス様
私は昔、海洋生物学関係の研究室にいたことがあるのですが、そこの先生からいろいろこの辺りの事情を教えていただいたことがあります。 西側各国では分類学の研究対象は基本的には研究者個人の意思に基づいて自由に選ばれてきました。これに対して東西冷戦時代の東側では、国内の生物相は国の財産であるという理念に基づき、大学で研究者の卵の段階から各分類群の分類学の研究者を計画的に割り振って養成し、国家プロジェクトとして生物相の解明を推進してきたのだそうです。 ですから、昆虫に限らず、旧共産圏の生物相は解明度が非常に高いようなのです。
茨城_市毛様
>中国の本は何冊も持っていますが,こんなデリケートな紙は初めてです. 「中国蠅類」は欲しい図書の1つですが、ちょっと心配になってきました。でも結局は購入すると思います。 ウミユスリカ様 >ですから、昆虫に限らず、旧共産圏の生物相は解明度が非常に高いようなのです。 旧共産圏にはそんな秘密があったのですか。生物兵器への利用などもひょっとしたら念頭にあったのかも・・・・ということまで想像を逞しくしてしまいました。
もともとの発想は、共産圏というよりヨーロッパ文化に古くからあるものなのです。
インベントリーInventoryという語をお聞きになったことがありますでしょうか?これは貴族の領地なんかで、領主の狩猟の対象となる動物がどんな種類がどれだけいるのかを調査して、目録にしておく事を指していた語です。現在では商店なんかのたな卸しのことも指していますが、元祖インベントリーも欧米ではずっと行われ続けました。 それどころか、ヨーロッパの勢力が新大陸、アジア、アフリカへと拡大していくと、博物学者を派遣して、その地にどういう(潜在的)生物資源が存在するのかを徹底的に調査するようになります。欧米の植民地帝国を縁の下で支えていたのは、このインベントリー活動でした。当時、日本にもこういう目的でシーボルトが派遣されてきましたよね。 ですから、(日本を除く)西側諸国でも自国の生物相のインベントリーは着実に進められてはいたのですが、共産圏ほどには国家プロジェクトとして計画的には行われなかったと言ったほうがよいのかもしれません。ロシアにしても西ヨーロッパに比べると近代化の遅れた後進国でしたので、その遅れを取り戻そうというあせりは大きかったですから、ソ連時代にはそれを工業化と同じ発想で、計画的に推進したんでしょう。 |
1.「ハエー人と蠅の関係を追うー」篠永哲著 八坂書房
2.「新版 日本の有害節足動物」 東海大学出版会 を見るとすばらしく細密に描かれたハエの絵が収録されています(1番はカバー裏)。(左の写真は1番の本からデジカメで) 長時間でも見飽きない美しい絵です。 生物系の教育では、顕微鏡を見て正確にスケッチするトレーニングを受けるということを聞いたこともあり、この分野の方は概してスケッチは上手だと思います。ただ、上記の本に掲載されているスケッチは、抜群の上手さです。 ボタニカルアートという植物を描く分野がありますが、同様にこのような昆虫を描く特別な手法やテキストなどは存在してるのでしょうか?自分でも挑戦したくなって来ました。図鑑もこのような絵で出来たものがあれば手元においてじっくり眺めたいものです。鳥では外国の図鑑はイラストで描いてあるものが多く、そのような図鑑を集めたり見たりするのも楽しみの1つです。 もし昆虫の絵を描くヒントなどがあれば教えていただければ幸いです。
衛生害虫のハエや蚊の全形の墨絵の多くは,かつて神奈川県にあった米軍の衛生関係の研究所と関係のある職業的画家によって描かれたものである,と言うことを聞いたことがあります.かなり信憑性がありますが,この画がそのようなものの一つであると確信があるわけではありません.また,日本の昆虫学者がそのような画家に依頼して描かしたものかもしれません.
今,日本でこのような画を描く昆虫学者はほとんどいないでしょう.昨年逝去された蝶類研究家(非職業的)である五十嵐 邁さんはアゲハチョウ類の幼虫や蛹の詳細な着色図を描いています.例えば彼の著書の講談社発行の「世界のアゲハチョウ」にでている画の多くは彼が描いたものです(後年は専門の画家に依頼したので,これらの画のすべてを彼が描いたわけではありません).世界文化社発行の彼の絶筆,「アゲハ蝶の白地図」にも彼が晩年に描いたテングアゲハの蛹の図があります.この図はしかしやや衰えが見とれます.また,手代木求さんの「日本産蝶類幼虫.蛹図鑑」にも彼が描いた素晴らしい着色図があります. 現今の大学の昆虫学関係の研究室では,特に全形図の写生を指導するようなことはほとんどないでしょう.ただし,交尾器などの解剖部分の線画は必要ですから,教えたり,また学生が自主的に習熟して描くようになっています.このような形態図の描き方を解説した著書はありません.もうずいぶん前(60年近く前でしょう)に雑誌「新昆虫」の創刊頃の号(1,2巻頃だったでしょう)で,昆虫写真家の確か染井さんだったでしょうか,線画の書き方の解説をしたのがあったと記憶しています.昆虫の外骨格の骨化部(クチクラが厚く硬い部分)を白く抜いて,膜質部(クチクラが薄く柔軟に伸縮できる部分)を点を打って表現する形態図の描き方は,米国の昆虫形態学者Snodgrass(Principles of Insect Morphologyの著者)の手法に基本的には倣ったもので,この変形(凹凸の状況を輪郭より細い補助破線を用いて表現する画法,など)は九州大学で昭和35年頃に2名の研究生(白水先生とともにシジミチョウ科Zephyrus類の著名な研究者で故人)と院生(今は退職者)によってほぼ確立され,これが今多くの昆虫学者に踏襲されています.一方,しばしば見られるような凹凸や濃淡を点の密度で著す画法とはべつに,前述の形態図よりも多くの細線を用いて表現する写生画法は,大英博物館(自然史)(British Museum (Natural History),今のThe Natural History Museum)の昆虫画家Terziやその後継者Arthur Smithによって確立され,後者がAquatic Insects of Californiaで示している水生半翅類の多くの全形図はその最たるものです.この画法に従って描かれたものが,今は絶版になっている北隆館の日本昆虫分類図説第1集第3部半翅目・アメンボ科の全形図です.この図は前述の「院生」によって描かれたものです.手に入りにくい本ですが,もし,このような画に興味がおありでしたら図書館などで参照ください. 形態の画像については,一部では依然としてプレパラート標本を写真撮影しているのもあります.特に,日本鱗翅学会の「蝶と蛾」に掲載される論文の多くは最近特に写真になっています.ただ写真撮影をする場合は,Helicon Focusなどの焦点合成ソフトなどを使わない限り,対象が1平面的でないとピントのずれが起るので,結局立体構造を持っている交尾器などを平圧してスライド作成をすることになり,それによって本来的な形状がゆがめられる欠点があります.しかしまた逆に写真ですから,それによって示される客観的状態も表現される利点があります. ご参考になるかどうかわかりませんが,あなたの質問へのお答えとします.
赤塚カケス様.
昆虫の描画については,下記のブログで紹介したことがあります. http://dipterist.cocolog-nifty.com/syrphidae/2007/10/scientific_illu.html このほかにも,"Scientific Illustration"等のキーワードで探すと,色々なHPがあります. 日本の場合,研究者が図まで全て書くのが一般的ですが,欧米では文章は研究者が書き,図は専門の画家が書くことも多いようです.大概,論文の謝辞に誰が描いたか記されていますし,図にサインが入っていることも良くあります. 先の図版については,アノニモミイア様が記されているように,伝説のアメリカ陸軍の406号研究室(Dep. Ent. 406th Medical Laboratory, U. S. Army)で描かれたものと思われます.Fauna Japonicaの謝辞にイラストレーターの名前が載っています. 一説では,1枚1週間とか1ヶ月掛かったとの話や,ものすごい高給取りだったとかの話もあります;^_^) P.S. 確かに,本文と図を分担したほうが研究としては効率的ですが,見ると描くとでは形態に対しての観察の深さが異なるようです. 私のような素人の場合,見ているだけではわからなかったことが,描いて初めて気が付くことが多々あります.
アノニモミイア様
茨城_市毛様 とても詳しいレスをいただき有難うございます。 昆虫のイラストだけでもずいぶんと奥が深いのだなと、コメントを読んで感じました。 市毛様にご紹介いただいた http://www.entomology.umn.edu/museum/links/5051.html にアクセスすると、イラストの描き方のパワーポイントのテキスト(説明)が出てきてとても参考になります。 またその中で、テキストとして The Guild Handbook of Scientific Illustration が紹介してあり、この本をアマゾンで立ち読みしたら、非常に面白そうな本でした。 双翅目に興味をもったら、色々な新しい世界が増えてきて楽しいです。(仕事でも少し役に立ちそうで、講演の機会などで少しハエの話題を使おうと思っています)
茨城_市毛様に教えていただいたイラストのサイトからパワーポイントの資料をダウンロードして、そこに掲載されている情報から、昆虫等の採集と整理のテキストにたどり着きました。
PDFで70ページ近いもので、一冊の本(英文)が無料でダウンロードできますので報告しておきます。 米国の農務省のサイトで http://www.ars.usda.gov/Main/site_main.htm?docid=10141&page=1 Introductionのところから全文PDF版がダウンロード可能です。 本の名前は Collecting and Preserving Insects and Mites: Tools and Techniques です。 このサイトを頻繁にごらんになっている方はご存知の内容だとは思いますが、昆虫初心者の私には非常に参考になりそうなテキストです。 以上ご報告しておきます。 |
はじめて投稿します。昆虫についてはアマチュアですが昆虫標本に関連した事を調べていて、このサイトにたどり着きご存知の方がいらっしゃるかもしれないと思い投稿いたします。
微小昆虫を乾燥標本にする際に使う微針の台として、最近はポリフォーム材などが使われているはずですが、古い文献を見ると、ポリポリスというキノコを乾燥させたものを使う、と書かれています。このキノコの正体を調べています。おそらくサルノコシカケ類と思われますが、名前をご存知の方、あるいは実物を持っておられる方はおりませんでしょうか。 双翅類とは全く関係ない書き込みで申し訳ないのですがご教示いただければ思います。宜しくお願いいたします。
あなたは「ポリポリス」と綴っていますが,ポリポルスPolyporusです.ポリポルスの微針用の台は10年ほど前まではヨーロッパの自然史用具関係の会社では扱っていましたが,最近は見かけなくなりました.イギリスのWatkins and Doncaster社でもかつては販売していたと記憶していますが,最近はNu-Polyという名称で,緻密なポリフォームを販売するようになってしまいました.私もいくらか持っていたのですが,今はポリフォームを使うので,おそらく捨ててしまったと思います.
正確な名称は知りませんが,Polyporus属ですからあなたが推定されているようにサルノコシカケ類と思います.菌糸が緻密に絡まったしっかりした硬めの素材で,色は白色ないし汚白色です.販売しているのは2−3mmの角柱で,長さが10cm未満であったでしょうか. 現在でも,ヨーロッパの古い標本などを手に入れると,しばしばこのポリポルス台を用いたものがあります. 日本ではポリポルスの代わりにヤマブキの芯,カミヤツデ(つうそう)の芯などが用いられましたが,微針に対する把握状態がよくなくて,ぐらつくことが多く,この点ではポリポルスに劣っていました.また,コルクや圧縮コルクも以前はよく用いられました. ポリポルス台の実物は,近くでヨーロッパの蜂やハエなどの昆虫標本を保管している博物館や,どなたか個人でこのような古い標本を交換をしている方がいたら,多分これでマウントした標本を持っているでしょう.
アノニモミイア様
ご返事ありがとうございました。白色なのですね。 それなら標本箱のガラス越しでもコルクと区別できそうです。博物館で探して見ます。 |
こちらのサイトの過去の書き込みを探しているうちにCoenosia属の写真に出会いました。その中の書き込みにあるようにCoenosiaでGoogleの画像を探してみると非常に面白い写真に出会いました。
http://www.diptera.info/articles.php?article_id=17 Coenosia attenuataが手乗りハエになり、空中の餌を採ると鷹狩のようにまた手元に戻ってくるという内容です。 ハエが人間の手に乗ることすら信じがたいのに、またその場所に戻ってくるというのも凄いです。 日本にもこのハエはいるのでしょうか。文中の記述では世界中に分布が広がっていると書いてありますが・・・
赤塚カケス様.
Coenosia attenuataメスグロハナレメイエバエは,近年高知から記録されました.ネットで調べると色々と出てきます. 専門家が皆無に近いので,国内の分布は不明です.
茨城_市毛様
日本でもこの興味深いハエが観察されているのですね。ぜひ見てみたものです。 Coenosia attenuataの和名は「メスグロハナレメイエバエ」でしたか。考えてみれば、学名をGoogleに入れて日本語のHPに限定して検索をかければ和名も調べることが出来ますね。 インターネットの検索に依存しないで、学名から和名を調べたり、和名から学名や英名を調べるのには通常はどのような方法で行われているのでしょうか?(ネットには間違いもあると思うので、信頼度の高い方法という意味で、ネットに依存しない方法を取るのが基本のような気がします) また、私は鳥の学名でしばしば経験したのですが、同じ鳥のはずなのに本によって学名が異なっており学名が揺らいでいることを経験しました。藻類でも同じようなことがありました。 そのような学名の整理は一体どのようにして行われてるのでしょうか?ハエ目の世界では学名は安定していますか?
赤塚カケス様.
ネット依存しないとなると,"日本産昆虫総目録"や"日本産昆虫の英名リスト"を調べる以外方法は無いと思います. 当然,新しい学名や今回のような新しく日本から記録された種類は調べられません. また,大半の双翅目には和名は無いと思ってください. 日本産全種に和名をつけるべきであるという極論もありますが,100種単位で和名を考える苦労を無視した暴論だと思っています. 園芸植物などは,学名をカタカナで書いて和名と称して通用しているのですから,これで十分なはずです. 学名の安定性については,学名は研究の進展によって変わるものだと考えてください. たとえば滅多に新種が出ない鳥類でも,DNA等の研究の結果いかんによっては,がらりと変わる可能性もあるはずです.
茨城_市毛様
「日本産昆虫学名和名辞書(DJI)」 http://konchudb.agr.agr.kyushu-u.ac.jp/dji/index-j.html というサイトを見つけました。 日本産昆虫総目録 (平嶋義宏監修、九州大学農学部昆虫学教室・ 日本野生生物研究センター共同編集、1989、同追加・訂正、 1990) が基になっているということで、市毛様から教えていただいた総目録です。このような信頼できる便利なデーターベースがネットで公開されているのですね。 Coenosia attenuataは新種のため登録されていませんでしたが、このデータベースがあれば十分に活用でき、私レベルではこれで十分すぎるものだと思いました。 |
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