この掲示板(一寸のハエにも五分の大和魂)では,双翅目の主に生態写真に基づく同定の依頼が多く寄せられています.このような同定については,これまで幾度か同定する側からの問題点が寄せられています.今回も田中川さんからTrichoceraが翅脈だけで同定可能かどうかの問い合わせが行なわれています.アーチャーンさんからは被写体を殺さずに(標本にしないで)おきたいという意向も示されています.
この問題について添付書類に私の見解を示してありますので参照ください. 添付:5171.txt (8KB)
三枝豊平様:
三枝先生には何度も御世話になって居りますし、また、私の名も出ていますので、一筆書かざろうを得ません。 先生が双翅目の普及の為、非常に努力されておられるのは、私の様な素人にとって大変有難いことだと常々思っております。特に標本の写真をその時々に応じて出して下さることなど、大変な労力を取られていることが察せられ、痛み入ります。それ故、先生がこの様なことを書かれるのも至極当然かと愚察致します。 しかし、このサイトが専門家かそれに近い埼玉県昆虫誌くらいの文献は最低持っている虫屋だけを相手とするのではなく、一般人にも公開していると言うことは、必然的に昆虫に付いての基礎知識を全く欠いた人が投稿すること、例えば、ボヤボヤのハエの写真や、時にはハチの写真を出して「何バエでしょうか?」と言う類の投稿があるのを覚悟しなければならないと思います。 私自身は、此方で見た頂いた結果をWeblogに載せることで、専門家と全くの素人との間の中継ぎになるのではないかと思って居ります(私のWeblogを見て虫嫌いが虫好きになった例がかなりあります)。小型の双翅目の場合、普通の人が見る生きた状態(生態写真)と翅を背側に揃え横向きに台紙や微針にマウントした標本とでは、余りに姿が違って見えます。双翅目に慣れた人以外は、図鑑に載っている横向きの図から、生きているときの姿を想像することは殆ど不可能であろうと思われます。生きたままの写真を示すことで、漸く普通の人でも比較が出来、また、虫に対しての親しみを感じる様になるのではないでしょうか。失礼ながら、先生の仰られる昆虫を殺さないで麻痺させる方法では自然状態での姿は撮れず、より正確な同定は出来ても、一般人への双翅目の普及には余り役に立たないのではないかと存じます。 虫の生態写真を精緻に撮るのは決して容易ではありません。私の写真は、生態写真としては比較的精緻で写真としても良く調整された方に属すと思っておりますが、私は大学時代は写真部と虫研の両方に所属しており、その頃から虫の写真を撮っておりました(以前も書きましたが、北大虫研の機関誌「蝦夷白蝶」第1巻の冒頭にある交尾中の蝦夷白蝶の写真は私が撮ったものです)。ストロボはかなり以前よりTTLになっていますし、最近はデジタルカメラなので、接写に伴う露出倍数やストロボとの距離などを計算する必要もなく、直ぐに結果を見ることが出来非常に楽になりましたが、それでも精緻な写真を撮ることが容易でないのは、此処に投稿されてくる方々の写真を見ればお分かりかと存じます。 精緻且つ調子も調整された写真を得る為に、私がどの様なことをしているかを書くのも、何かの参考になるかと思いますので、一寸書いておきます。微小な虫を精緻に撮るには、ハンマー氏の様に、コンパクトカメラにクローズアップレンズを付ける方法が被写界深度(焦点の合う範囲)が深くて一番良い様ですが、私は仕事で使うカメラを流用しているので、一眼レフに100mmのマクロレンズを付けて撮って居ります。 レンズの焦点距離が100mmなので、被写体(虫)からかなりの距離を取ることが出来、逃げられる機会は少なくなりますが、その反面、被写界深度が浅くなります。絞り(F値:焦点比)を大きくすれば深度は深くなりますが、回折により解像度は低下します。この辺りのバランスが難しいところです。小さな虫を等倍且つ高解像度で取る必要があるときは、普通F16(このカメラでは撮影時のレンズ中心からの比率なので、等倍接写の場合、レンズ自体の焦点距離に対する比率は半分のF8)に設定しますが、この時の深度は0.5mm位ではないでしょうか。この0.5mmの範囲に虫の手前側を入れなくてはいけないのです。人が立ったままの姿勢の場合、自分では気が付きませんが、頭は数mmの範囲でフラフラしています。そのフラフラしている間の焦点が合う一瞬を狙ってシャッターを切る訳です。合ってからでは遅いので、次の瞬間に合う、と思った時に切ることになります。射撃と同じです。この立った儘の姿勢の場合、F16の「命中率」は10%以下になります(現実的でないので、立った儘の場合は普通F20以上に設定します)。膝をついたり、しゃがんだ姿勢の場合は20〜30%になりますが、何れにせよ、一方向のみでも安全を見込んでかなりの枚数を撮る事になります。私は可能であれば最低限、背面、側面、正面、斜め前の4方向から撮ることにしていますので、虫1頭を高精度(F16)で撮ろうとすると、全部で30〜50枚撮ることになります。先日先生に同定していただいたチビクチナガハリバエの1種Siphona paludosaの場合は、深度もずっと浅く、また、焦点合わせの難しい2倍の超接写システムを使いましたので、全部で200枚以上撮ったと思います。 撮った写真のデータは全てraw形式で保存しています。接写の場合、カメラが妙な判断をしてとんでも無い色調にしてしまうことが屡々あり、jpgにすると色の調整が不可能になってしまうからです。rawで撮った写真はサイズが大きいので、表示にも時間がかかりますし、jpgその他の形式に変換する現像処理をしなければなりません。 撮った後は、先ず、沢山の写真の中から使える写真を選び出します。全てピクセル等倍に拡大し、精緻度、深度を比較しながら不要な写真を削除して行きます。精度が同程度の写真が複数枚あるときは、選択にかなり時間がかかることもあります(優劣の付かない写真は全て残しておき、後の段階で1枚を選びます)。この時、虫全体の写真としては使えなくても、翅脈がハッキリ写っていたり、同定に必要と思われる剛毛が良く写っているコマは残しておきます。この取捨選択は、写真の枚数が多い場合、かなり疲れる作業です。 次にraw形式の写真を現像してjpg形式に変換します(TIFFの方が劣化がないので良いのですが、大き過ぎるのでjpgにしています)。色温度、コントラスト、アンシャープの度合い等(それぞれに複数の設定項目があります)を個々の写真に合わせて設定し現像します。この時、出来る限り色調その他を統一しておく必要があります。複数種のカメラを使っていますので、現像には汎用のSilkypixを使っていますが、このソフトウェアは複数の写真を大きく表示出来ないので、調子の比較が出来ません。人間の眼は随分いい加減で、見るときによって随分調子が違って見えます。そこで次に、Nikon Scanと言うニコンのフィルム・スキャナー附属のソフトウェア(これがメモリーも食わず、操作性も非常に良い)に、標準として定めている写真と新たに撮った虫の写真を同時に表示させ、主にトーンカーブ補正を使って調子を揃えると共に、同じ様な写真の取捨選択を行います。 このNikon Scanには、調子を整える機能しかありませんので、掲載に必要なトリミング機能は付いていません。そこで、最後にカメラ附属の「Adobe Photoshop Elements 2」を使って、必要な部分を切り出し、最終的な仕上げ(部分を切り出すとまた調子が少し違って見えます)をして、Web用の高圧縮jpgファイルに落とします。これで終わりとなります。 写真の枚数が少ない場合(仕上げが1枚)は大したことはありませんが、枚数が多いと、これはかなりの労力を要す作業となります。私のハードディスクの中には、一昨年や昨年撮って未だに選択すらしていない写真がかなり残っています。丁度、採集はしても、三角紙の中に標本にしていない虫が残っているのと同じです。 この様な作業の他に、更に虫を採集して標本にするとなると、これは、もう職業的な昆虫写真家でないと、時間的にも出来ないことだと思います。 ・・・と言う訳で、私としましては、今後はより解像度が高く、同時に検索に必要な部分が良く見える写真を撮るべく一層の努力致したいと思っております。私も大学1年までは採集をして居りましたから、特徴の少ない双翅目昆虫の場合、ゲニタリアを見ないで種を判別できるとは始めから思っておりません。属まで落ちれば、万々歳です。 また、問い合わせをするときには、せめて科まで落としておくのが、訊ねる側の然るべき態度だと思います(落ちない場合もありますが・・・涙!!)。幾ら写真が精緻でも、自分で何も調べずいきなり「何でしょうか?」と訊ねるのは、全くの素人は仕方ありませんが、多少は虫に関係している者のすることではないと思います。 以上、甚だ僭越不遜かも知れませんが、私の思うところを述べさせて頂きました。先生におかれては御不満かと存じますが、今後とも何卒御見捨てなく御指導下さる様、切に御願い申し上げます。
アーチャーンさんの写真が精緻なことはいつも感心していましたが,このような努力の賜物であると初めて知ることができました.撮影や画像の処理の方法など全く私の及ぶところではありません.このような方法があるのか,と感心しています.
また,投稿される方が,名前を知りたい,と言う意向が,必ずしも分類学的に種まで,ということではないとは常々思ってはいますが,こちらではつい種までと,みずからの努力目標にしてしまうところです.このあたりの認識の違いがでるのかもしれません. 私は従来のカメラを用いていた時代には,かなり精緻な写真が撮影できたのですが,デジタルになってからは,次々と新しい機種が出てきて,いったい何を使ったらよいか,途方にくれます.時々良い写真を撮影している方に撮影機材などをお聞きして,それを購入して使うこともありますが,なかなか使いこなす域に達しません. そのようなわけで,ピクセル数のいたってすくないCOOLPIX 990をほとんど愛用しています.これに顕微鏡の接眼レンズを逆付けするとか,少しは工夫をしているのですが,どうしても解像度にはおのずと限界もありますし,また球面収差や色収差が出てしまいます.新訂原色昆虫大図鑑に使った写真もほとんどすべてこのカメラで撮影したものです. もちろんこれらは標本写真ですから,あなたのように生態写真を撮影する場合はさらに困難な問題があることは理解しています. 双翅類の名前がわかる側としては,掲載された写真について,わかる範囲で答えておくということにしておくのがでいいのかと思っています. ご意見の: [失礼ながら、先生の仰られる昆虫を殺さないで麻痺させる方法では自然状態での姿は撮れず、より正確な同定は出来ても、一般人への双翅目の普及には余り役に立たないのではないかと存じます。], と言う点については,あなたの志しておられる自然状態の生態写真についてあれこれ言っているわけではありません.被写体のより詳細な同定を希望されるのであれば,自然状態の写真を撮影した後に,その個体を採集して麻酔状態で識別形質が分かるような写真を,同定のために撮影したらいかがだろうか,という意味です.撮影後に麻酔が醒めたらば,また野外に放してやることで,被写体を殺さずにすむからです.しかし,この場合でも麻酔の度合いを深くしすぎたり,また冷媒が体につくなどをすると,毒殺または凍殺(こんな言葉はないですね)してしまうことになります.この場合に,私が紹介している吸虫管を使うと便利です.
三枝豊平様:
先生が特にお怒りではない様なので、胸を撫で下ろしております。 後半の麻痺させる方法についてのお話は了解致しました。 今後も宜しく御指導賜るよう御願い申し上げます。
三枝様,アーチャーン様.
私は,昆虫写真が高じてこの道に迷い込みました;^_^) 周りにプロやセミプロクラスの方が多かったので,人とは違った地味な昆虫を撮影するようになったのですが,普通の図鑑では種類が判りません. しかし,リバーサル時代ですのでフィルムだけでも毎月何万円という金額が掛かっており,出来の良い写真の虫の名前をどうしても知りたいと思いました. そこで,当時世田谷の東京農大前にあったTTS昆虫図書などで色々な本を片っ端から購入すると共に,出来る限り撮影した昆虫を採集して標本にするようになりました. 結局,写真のほうは才能が無いとあきらめましたが,採集だけは続いております. この生態写真を撮影した後に採集するというスタイルは,現在でもいくつかのグループで行われているようで,番号分けした容器で持ち帰るようです. なお,昆虫写真のパイオニアだった佐々木昆氏は,微小昆虫を撮影する際に軽い麻酔をかけて動きを鈍くすることもあったと思います.(当時,写真集団の飲み会で麻酔は邪道かとかいう論議で盛り上がったような覚えがあります)
茨城_市毛様:
写真の方が先であったとは存じ上げませんでした。人様々であることを今更の如く実感致しました。 私は高校〜浪人時代に5,000以上ものヒメバチを採集し、標本にもしたのですが(ハチ用展翅点足板と言うものを考案してそれを使って標本を作っていました)、北大に都落ちしている間に全てカツオブシムシに食べられてしまったので、無駄に虫を殺してしまったと言う慚愧の念が強く、以降は虫を殺すのに抵抗を感じる様になりました。 写真の方は、田中光常氏の動物写真や佐々木昆氏のマクロ撮影(当時唯一オートベローズを使えたミノルタSR7を使われていたと記憶しています。ミラーが大きくミラー切れが生じ難い代わりに後退ミラーの為故障が多かったと聞いています)に興味をそそられていました。しかし、田淵行男氏の「アシナガバチ」を見て、やはり昆虫の写真を撮るならばlife cycle全体を撮らなければ無意味に近いと思い、それ以降虫の写真は余り撮らなくなりました。しかし、この時期に写真に関する光学理論や現像理論等を随分勉強しましたので、これがその後非常に役に立っています。 大学の研究室に入ってからは、膨大な各種顕微鏡写真その他(合計フィルム約1000本)を毎日の様に撮っており、殆ど写真屋みたいなものでした。とても趣味で写真を撮る気になる様な状況ではなく、暫く趣味の写真は全く撮りませんでした(結婚式の写真撮影等は屡々頼まれましたが・・・)。 (中略) 虫の写真を再度撮り始めたのは、フィルム代のかからないデジタルカメラになってからです。ただ虫の写真を撮っただけでは昆虫写真家としては殆ど無意味に近いとは今でも思っていますが、私は写真家でありませんし、Internetの普及に伴って、ただの虫の写真でも図鑑的な意味合いが出て来たので、最近はまた虫の写真を撮っている様な訳です。 ハンマーさんも写真ばかりでなく採集もされている様ですし、過去ログを見ると、バグリッチさんも初めは写真だけだった様な感があります。「同定」という言葉の本来の意味に準じる同定をするには、標本を作る、或いは、三枝先生が仰る様な麻痺させてゲニタリアを含む必要部分をシッカリ撮る必要があることは重々承知しておりますが、時間的な問題もあり、実現は中々難しいところです。
皆様こんにちは
私は若い時は昆虫採集、今は昆虫写真のほうを楽しんでおりますが、ハエの分類に関するまったくの知識不足から、少し前までは、アーチャーンさんと似たともいえる考えを抱いておりました。そして私のBBSでしたが、ハエ研究の世界は門外漢に非常に不親切で、素人には写真では同定不可とにべもない門前払いを食らわせる敷居が非常に高い閉鎖空間である。このままの状態では周囲からの善意の知識や情報提供は期待できなく、外部との交流のなさは次世代の人的資産の育成を阻み、結果的にジリ貧に陥ってゆくであろうという大変な暴言(大恥だ)を吐いた者です。 私も自分で撮影した昆虫は名前がわかったほうが楽しいし、また、撮影した写真が昆虫学に対して何らかのプラス要素になれば、あるいは一般人が自然に対して興味を持つきっかけにでもなればすばらしいと考えています。 しかし、大型の比較的同定の簡単なグループの昆虫あるいはその分類研究分野にいらっしゃる研究者に対するのと似た目線でしばしばハエ界を見ていたものですから、ハエは生態写真で科あるいは属レベルぐらいまでは簡単に同定できると誤解することもしばしば。ひいては研究者の知識不足や研究不足や怠慢ではないかとのうがった見方もしたりしていました。 しかしそのときに三枝先生から、日本あるいは世界のハエ研究の実情と現状ならびに研究対象となるハエ目の膨大さや同定の困難さなどを詳しく説明していただき、目からうろこが落ちたように感じ入りました。 このハエのBBS運用に関しての研究者側からの説明あるいは考えは上の三枝先生の説明でもよくわかります。 あとはこのBBSに接するにあたっての生態写真撮影者側の考え方がどのようなものかが重要なポイントであろうと思います。これはまったくに個人個人で異なるもので、どうあるべきかなどひとつにくくれるものではないだろうと思います。投稿者の考え方つまり要求が多岐にわたるわけです。ただ、よそ様の座敷にあがるのですから最低限のマナーは必要ですね。 こんな考えをしてる人物も中にはいるんだという情報提供のために私の考えを述べておきましょうね。 私はいわゆる『やらせ写真』は好みません。あくまでも自然状態での生態写真にこだわっています。撮れなければそれで結構。そこにこだわるからこそ私自身チャレンジの目標もできまたそのための作戦や面白い取り組みもできるわけです。これはまったくの自己満足の世界であって、他の方に決して強制するものではありません。 子供向けのカブトムシ・クワガタの図鑑の定番に、クヌギの樹幹に昼間堂々ととまっているオオクワガタの写真が出たりしますが、本当は夜行性のオオクワガタは昼間はよほどのことがない限り木のウロからは出ません。カミキリムシのある生態図鑑にシイの樹幹に昼間とまっているベーツヒラタカミキリが掲載されていますがこれもまたしかりです。撮影の困難な種に対してはごく軽い麻酔をして撮影、あるいはスタジオに持ち込んでの撮影、または飼育してからの撮影も方法としてはありますが、わたしはやりません。私にとっては現在必要がないからです。でも、一般人向けにはこの手の作られた写真は昆虫の生息環境を理解させるにはもってこいの写真だとも思います。私が自分に課している写真の撮り方ではないのでそうしてまでは生態写真モドキは撮りたく思っていないだけです。もし将来、子供たちなどに説明するために必要な機会が増えてきたら着手するかもしれません。 今現在どうしても写せない写真のひとつはクロコノマチョウの翅の表なんです。標本写真を写せば表を撮影するのは簡単なのですが自然状態ではこのチョウはとまった時は必ず翅を閉じます。羽化のときなどに瞬間的に表が見えるかもしれないと、万一の機会をいまだに窺っています。 昆虫は生きているときと標本にしたときはまったく違って見える種が多いです。生きているときはどのように翅をたたんでいるか、生きているときの複眼の色は何色か、擬態の姿勢など、標本からは窺い知れない多くの情報が生きている写真から得られます。これも昆虫を研究するに当たっての重要な分野だと私は思います。そのためにはいろんな方法を駆使しての生体写真(生態写真ではない)も必要なのだとは思います。ただ前述のとおり私には必要がないから撮らないだけなのです。もし私に時間がたっぷり、機材も資金もたっぷりでしたら取り組むかもしれません。 アーチャーンさんがおっしゃった「失礼ながら、先生の仰られる昆虫を殺さないで麻痺させる方法では自然状態での姿は撮れず、より正確な同定は出来ても、一般人への双翅目の普及には余り役に立たないのではないかと存じます。」というくだりに関しましては、事実誤認ではないかと思います。標本やより正確で詳しい写真ならびにその同定やデータなどは分類学や形態学など多くの学術分野の発展に寄与するものであり、その基礎的情報の集積や分析結果が一般人に知識としてフィードバックされ、一般人への問題提起や一般人の興味を奮い立たせたりあるいは疑問解決に役立つのだと思います。そういったシステムが文化だと考えます。 私自身はこれからも野外でハエ目の写真は機会あるごとに撮影していこうと思っております。これだけ学術が高度になりまた研究分野が広く深くなっていくと人の一生でやれる作業時間には収まらずに分業の世界になってゆかざるをえないと思いますから、とりあえずは撮影した写真を自分でストックだけはしておこうという魂胆です。将来なにか活用できる場があればそのときにホコリを振るいながら取り出そうと考えています。 で、このBBSに対しては私はどのように接していくかですが、後ろ向きではありますが、BBSは時々訪れて、種々の書き込みを読ませていただき、我が貧相な頭に少しでも活を入れておきたいです。 |
32KBのワード文書を添付しようとしましたが,拒否されました.どうしたらいいでしょうか.文中には♂交尾器という単語が入っていますが(市毛さんは5166で「交尾器」をつかっています),それ以外は引っかかりそうな言葉は使っていません.文書がながいので,本文は避けようとして,添付にしたのですが.ただし学名は斜字体,一部の文章はゴシック(太字)を使っています.
三枝豊平様.
掲示板の使用を見ると, 添付可能ファイル : GIF, JPEG, PNG, TEXT, PDF, MIDI 最大投稿データ量 : 100KB となっていますので,ワード文書は添付出来ない設定のようです.
市毛さん.有難うございました.テキストファイルにしました.
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双翅学会は数年間活動を休止しておりましたが、
この度、琵琶湖博物館の桝永氏、森林総合研究所の末吉氏と私で会務を引き継ぎ、当学会の活動を再開することとなりましたので、ご案内いたします。私は庶務を他の二人が編集を担当いたします。 会員の方々にはすでにご挨拶と新体制の紹介をお送りしています。会誌の発行や小集会の開催をはじめとした活動を着実に継続していきたいと思いますので、皆様のご協力をいただけますよう、よろしくお願いいたします。 学会の活動が再度軌道に乗って会誌などが発行され始めるまで新規の会員を募集するのも気が引けるのですが、ご入会いただける方、当学会の活動に興味をお持ちの方がありましたら中村までご連絡いただきたく存じます。 この掲示板は双翅目談話会の会員の方が多く利用されていることは重々存じておりまして、他の会の紹介を書き込むことを躊躇したのですが、管理人様のご了解を頂きましたので紹介させていただきました。 |
これはガガンボ(ガガンボ科とヒメガガンボ科)ではありません.一見体形がガガンボに類似していますが,これとは類縁性が遠いガガンボダマシ科(Trichoceridae)の1種です.翅後縁基部近くに湾曲した短いA1脈(伝統的A2脈)がはっきり写っていますが,これがこの属の重要な特徴です.
なお,このように翅に顕著に発達した斑紋を持つ種はT. maculipennis群に属するものです.詳細な種の同定には達磨大師のお出ましが必要でしょう.
アノニモミイア先生のご意見の通り、ガガンボダマシ科の一種で、翅の模様からTrichocera maculipennis Meigen,1818ウスモンガガンボダマシそのものと思います。この個体もご自宅で見つけたとのことでしたが、畑の周りや公園、庭、墓地などで見られるものです。
アノニモミイア様、達磨様、ありがとうございます。
科名にたがわず、すっかりだまされてしまいました。 ガガンボダマシが身近なところに生息していることが分かりました。 |
予定が狂って時間が余ったので,内職に新訂大図鑑のオドリバエをまとめてみたのですが,日本産昆虫総目録でClinocerinaeに入っていたAcanthoclinocera dasyscutellum Saigusa, 1965の所属がわかりません.
Clinocerinaeは,Brachystomaがタマオオドリバエ亜科として独立し,他はすべてオドリバエ亜科に移ったので,Acanthoclinocerもオドリバエ亜科と思われますが如何でしょうか? 色々と,お世話になっているのでオドリバエ科も盛り上げたいと思います;^_^) よろしくお願い致します.
市毛さん.ご苦労様です.新訂原色昆虫大図鑑第3巻担当部の各所にミスなどあるので,気づかれたらよろしくお願いします.
本種は, Sinclair, B. J. & Saigusa, T. (2005). Revision of Trichoclinocera dasyscutellum group from East Asia (Diptera: Empididae; Clinocerinae). Bonner zoologische Beitraege 53(2004), Heft 1/2: 193-209. の論文でAcanthoclinoceraをTrichoclinoceraのシノニムにしましたので,学名は現在は Trichoclinocera dasyscutellum (Saigusa, 1965) となります.
三枝豊平様.
いつの間にか,属が変更となっていたのですね. ありがとうございました.
市毛さんが「いつの間にか」との意味がわかりました.新訂原色昆虫大図鑑ではAcanthoclinocera属の種が出ていないばかりか,Trichoclinocera属の記述の中でもこの属について全く触れていなかったからですね.この点は一人合点していて,書き落としました.
三枝様,お言葉に甘えていくつか新訂大図鑑の疑問点を質問させて頂きます.
P.406左中で,「本種からイトウモセブトハシリバエ(2291)まではハシリバエ亜科Tachydromiinaeに属する」と記されており,Symballophthalmus speciosusフタイロオオメハシリバエ(2292)の所属が記されていません.また,P.409右中で, 「本種からヤマトモモブトヒメセダカバエ(2299)まではチョボグチセダカバエ亜科Ocydromiinaeに属する」と記されており,Euthyneura aerea(2300)と,Trichina fumipennis(2301)の所属が記されていません. P.412左中で, 「本種以降は狭義のオドリバエ科に属する」と記されているだけで,2304以降の種類については亜科が記されていません. 図鑑としては,亜科が記されていなくても差し障りは無いのですが,今後地方目録などの資料として新訂大図鑑を利用する場合,最近の亜科の状態を記しておかれたほうが良いと思われます. なお,World Catalog of Empididaeで調べると下記の様になりましたが,このように考えてよいのでしょうか? 2284-2292 Tachydromiinae ハシリバエ亜科 2293-2296 Hybotinae セダカバエ亜科 2297-2301 Ocydromiinae チョボグチセダカバエ亜科 2302 Brachystomatinae タマオバエ亜科 2303 Microphorinae ネジレオバエ亜科 2304 Oreogetoninae 2305,2307 Trichopezinae 2306 Brachystomatinae 2308-2315 Clinocerinae 2316-2317 Hemerodromiinae 2319-2346 Empidinae オドリバエ亜科 よろしくお願い致します.
市毛さん,いろいろご指摘ありがとうございました.
半年足らずの間に,アミカ科からヒラタアシバエ科まで,実際のところ論文を書くような,標本検討,解剖,原記載照合などの調査をした上で,原稿作成,写真撮影などを行なって,なんとか出版に間にあわせたのが,私の担当部分ですので,言い訳がましいのですが,やはり各所に遺漏がありますね.あげくの果てには,双翅目の総論やムシヒキアブ科,ハナアブ科ほかまで押し付けられて,往生しました.いつものことですが,この社の編集体制は・・・・・ さて, 「P.406左中で,「本種からイトウモセブトハシリバエ(2291)まではハシリバエ亜科Tachydromiinaeに属する」と記されており,Symballophthalmus speciosusフタイロオオメハシリバエ(2292)の所属が記されていません.」 とのご指摘はもっともで,イトウモモブトハシリバエ(2291)はフタイロオオメハシリバエ(2292)とすべきです. 「P.409右中で, 「本種からヤマトモモブトヒメセダカバエ(2299)まではチョボグチセダカバエ亜科Ocydromiinaeに属する」と記されており,Euthyneura aerea(2300)と,Trichina fumipennis(2301)の所属が記されていません.」 についても,2290までではなくて,2301までです. 「なお,World Catalog of Empididaeで調べると下記の様になりましたが,このように考えてよいのでしょうか? 2284-2292 Tachydromiinae ハシリバエ亜科 2293-2296 Hybotinae セダカバエ亜科 2297-2301 Ocydromiinae チョボグチセダカバエ亜科 2302 Brachystomatinae タマオバエ亜科 2303 Microphorinae ネジレオバエ亜科 2304 Oreogetoninae 2305,2307 Trichopezinae 2306 Brachystomatinae 2308-2315 Clinocerinae 2316-2317 Hemerodromiinae 2319-2346 Empidinae オドリバエ亜科 」 2318もHemerodromiinaeです.なおオドリバエ上科の系統発生的分類体系(phylogenetic systematics)は双翅目のなかでもどちらかといえば激動的です.Yang君のカタログはひとつの分類体系でしょうが,SinclairとCummingが「The morphology, higher-level phylogeny and classification of the Empidoidea (Diptera). Zootaxa 118 (2006)で示した体系は,以下に列記したように上記カタログとはかなり異なったものです.Incertae sedisは言うまでもなく「所属不詳」の意味です. Incertae sedis (Homalocnemis, Iteaphila gp., Oreogeton) Empididae Incertae sedis (Ragas gp., Brochella, Philetus, Hesperempis gp.) Hemerodromiinae Chelipodini, Hemerodromiini Empidinae Empidini, Hilarini Clinocerinae Atelestidae Nemedininae Atelestinae Hybotidae Incertae sedis (Stuckenbergomyia) Trichininae Ocydromiinae Oedaleinae Tachydromiinae Symballophthalimini, Tachydromiini, Drapetini Hybotinae Bicellariini, Hybotini Brachystomatidae Trichopezinae Ceratomerinae Brachystomatinae Dolichopodidae s. lat. Microphorinae Parathalassiinae Dolichopodidae s. str. 亜科は省略 Iteaphila gp.のIteaphilaやAnthepiscopusは邦産種がありますし,OreogetonもEmpidoideaの中で系統的位置が明確ではない,としています. RagasもHesperempisも邦産種があります. Bicellaria(とHoplocyrtoma)はOcydromiinaeではなくて,狭義のHybotinaeに含まれています. ThalassophorusはParathalassiinaeに含まれます.この亜科にはほかにMicrophorellaとその近縁未記載種が日本にいます.前者は微小なオドリバエでClinoceraと同様に渓流の湿石上で,後者は海岸砂浜で生息します. MicrophorinaeのMicrophorは数種日本にいます. OedaleinaeのOedaleaは数種邦産種があります. XanthodromiaについてはSinclairらは述べていません.これは私が作った属ですが,いわば鵺のようなわけの分からないものです.Brachystomaに近いのかもしれません.
三枝豊平様.
オドリバエ科は,カタログによって科の範囲が異なったりするので,リストにまとめるのが難しいと感じていましたが,このように細分する考えもあるのですね. たいへん詳しく解説して頂きありがとうございました.
No.5142のSinclairらの文献の引用に入力ミスがあったので訂正してあります.
細分ですが,系統発生関係を基にして分類すると,MicrophorやThalassophorusはアシナガバエ科に含まれることになります.しかし,やや概観も異なりますし,それに中室からのM脈が3本もでていて,とてもアシナガバエとはいえません.これを避けようとすれば,彼らがDolichopodidae, s. lat.としているのを分解して,Microphoridae, Parathalassiidae, Dolichopodidaeと三つの科を認めることになります.しかし,前2科は外観的にもきわめて類似しているので,違和感は拭い去れません.このあたりがいわゆる伝統的分類体系(側系統群を分類単位とすることを容認する)と系統発生的分類体系(いわゆる分岐分類体系,単系統群のみを分類単位とする)の齟齬が生じるゆえんです. 全般的に類似しているものは系統的にあまりはなれていないのなら一群としてまとめておいた方が参照する分類体系として[都合]がよい,とするか,全般的類似は時には無視しても系統的なまとまりのあるものだけを一群とすることで進化の道筋がわかる分類体系が[必要]である,とするかの違いでしょう. |
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