クロバエ科のMelinda pruinosaコチビクロバエとM. pusillaチビクロバエの違いが良く判りません.
Fauna Japonica P.32を見ると,palpiの色が褐色なのでM. pusillaとなるようなのですが,交尾器を見るとM. pruinosaのようにも見えます.
Fauna Japonicaや、この記述のもと文献となったKurahashi(1964)ではpalpiの色は、M. pruinosaがblackish、つまり黒っぽく(黒色ということでないのがミソ)M. pusillaがbrownつまり褐色となっており、なおかつ"This species can be hardly differented from M. pruinosa by the external appearance."つまり、外見では(交尾器を見ない限り)同定困難とされています。基準となる比較用の標本がよほどたくさん蓄積され、個体変異の幅がつかめない限りは、palpiの色で同定しないほうがよく、交尾器の形態による判断を信じたほうがよいかと思います。
また、分類学的な変更もあるのでご注意ください。 Fauna JaponicaでMelindaに分類されていたハエは、イオコクロバエを除いてMelindaからははずされています。Melindaは亜科MELANOMYIINAEに分類されていますが、この亜科に属するハエはカタツムリ寄生で特殊化した産卵管を有していますが、Fauna JaponicaのMelindaでこの産卵管を有しているのはイオコクロバエだけです。 1979年の「ハエ−生態と防除−」ではイオコクロバエ以外のFauna JaponicaのMelindaはOnesiaに移されたとされていますが、コチビクロバエとチビクロバエは横溝後翅内剛毛が3本ではなく2本ですので、Knut Rongnesの分類に従えば、OnesiaではなくBellardiaになります。 さらにチビクロバエの原記載時の学名はMusca pusilla Meigen, 1826ですが、1790年にGmelinがMusca pusillaを記載しています(現在ハナアブ科に分類されている種らしい)ので、これのJunior primary homonymになってしまいます。そのため、Knut Rongesの"Blowflies (Diptera, Calliphoridae) of Fennoscandia and Denmark"ではOnesia viarum Robineau-Desvoidy, 1830を有効な原記載として、Bellardia viarum (Robineau-Desvoidy, 1830)を採用しています。
とりあえず♂ゲニの形状はコチビクロバエになると思います。
手元にシノニム関連の資料がないので学名の取り扱いは?つきますが中国動物誌 麗蝿科を見る限りはBellardia nartsukae=M. pruinosaになると思います。
ちょっと引っかかっている点が1つあります。
いろいろ検索してみても、Gmelinが1790年に記載している"pusilla"という種がどうしてもカメムシしか見つからないのですよね。Rongesの言うところのハナアブ科のMusca pusillaはどこに行ってしまったのでしょうか。
ウミユスリカ様.
確かに,色については難しいものですね. 交尾器での同定に自信が持てなかったのは,Kurahashi(1964)やFauna Japonicaでの古い分布記録と,埼玉県昆虫誌や皇居の昆虫での分布が逆転しているように感じたからです. Kurahashi(1964)やFauna Japonicaでは,M. pruinosaコチビクロバエが山岳部に分布し,M. pusillaチビクロバエは森林地帯や沼沢地の普通種と記されています. 一方,埼玉県昆虫誌ではM. pruinosaコチビクロバエが平地に分布し,M. pusillaチビクロバエが山岳部で記録されており, 皇居の昆虫でもコチビクロバエ M. pruinosaが記録されています. どちらの分布が合っているのでしょうかね? なお,学名については諸説があるようですが,次回の目録では両種ともOnesia属で,コチビクロバエはOnesia nartshukae (Grunin, 1970)となっていたのでは?
ハエ男.
返信を書いている間に,コメントが入ってしまいましたね. コチビクロバエとのことありがとうございます. ウミユスリカ様. Musca(Syrphus) pusilla Gmelin, 1790はSys. Nat. Ed.13で収録されたと記されていますが,旧北区のカタログではDoubtful species of Syrphidaeとの扱いになっています.
市毛様
Kurahashi(1964)をよく見ると、チビクロバエが標高2500mの高山にまで出現し、世界での分布も北に偏っている(北欧のデンマークにまで出現する)のに対し、コチビクロバエは山地に出現するものの比較的稀(つまり地点の例数が少なくなりがち)で、世界での分布も南に偏っている(北欧では記録されておらず、チビクロバエの記録がない北アフリカのチュニジアやアルジェリアに出現する)ことが読み取れます。「埼玉県昆虫誌」や「皇居の昆虫」の記述とは矛盾しないと思います。 >> 次回の目録では両種ともOnesia属で,コチビクロバエはOnesia nartshukae (Grunin, 1970)となっていたのでは? まだ公式には未発表のリストなので、あえてスルーしておきました。Onesia属とBellardia属は非常に縁が近いので、BellardiaとOnesiaを分けない見解なのだと推測しております。横溝後翅内剛毛の数と前縁脈の下面の毛の生えている範囲に違いが出るのですが、この辺りの形質の評価で見解が分かれるのかもしれません。 >> 旧北区のカタログではDoubtful species of Syrphidaeとの扱いになっています. なるほど。存在するか疑わしい種なのですね。
>> まだ公式には未発表のリストなので、あえてスルーしておきました。
と書きましたが、「埼玉県昆虫誌」で既にこの学名になっていましたね。今確認いたしました。 また、「中国蝿類」ではコチビクロバエがBellardia nartshukae (Grunin, 1970)、チビクロバエがBellardia pusilla (Meigen, 1826)となっていました。「中国動物誌 麗蝿科」では、Bellardia nartshukaeの方は掲載されていますが、チビクロバエは掲載されていませんでした。 どうも、Bellardia属を認めるか、またMusca pusilla Meigen, 1826を有効な記載とみなすかどうかがどの学名を採用するかの焦点となっているようですね。
ウミユスリカ様.
ネットを調べたら,もっと劇的な論文が出ていました. Verves(2004)The species of genus Bellardia Robineau-Desvoidy http://www.biosoil.ru/fee/2004/N-135/N-135.pdf この論文では,Melinda pruinosaとM. pusilla双方を誤同定としてBellardia nartshukaeのシノニムとしています. 分布を見る限り,極東側にはヨーロッパとは別の種類が 分布すると考えているようです. 私としては,双方の形態の差が少ないので,このほうがスッキリするような気にもします. ありがとうございました.
>> この論文では,Melinda pruinosaとM. pusilla双方を誤同定としてBellardia nartshukaeのシノニムとしています.
なるほど。でも、Bellardiaって世界的に見ても、雄でも(つまり交尾器をチェックしても)種間の形質の差異がわずかで、同定の難しさは札付きなんですよ。だから、コチビクロバエとチビクロバエが同種を無理に2種に分けてしまっていたのか、本当に別の2種なのかは、まだまだ検証研究が不足しているようにも思えます。 もっと微細な形質を徹底的に比較して、さらに最終的にはDNAバーコーディングなんかの手も借りる必要があるかもしれません。
おまけですが、RongnesはTriceratopyga(フタオクロバエ属)とAldrichina(ケブカクロバエ属)は認めていません。Calliphoraに統合しています。このあたりの属レベルの分類はまだ流動的ですね。
ウミユスリカ様.
確かに,有弁類は分類が流動的なところが多いようですね. 今年こそと有弁類の標本を整理していますが,和名を書いていると自分がイエバエ科を調べていたのかクロバエ科を調べていたのか判らなくなります. イエバエ科のなかには,○○ハナバエというのも多いですし;^_^)
>> 和名を書いていると自分がイエバエ科を調べていたのかクロバエ科を調べていたのか判らなくなります.
イエバエ科にキバネクロバエ、セアカクロバエ、オオセアカクロバエなんていうのがいますからね。ただ、後二者は小盾板を見れば、いかにもなオオイエバエ属ではありますが。 >> イエバエ科のなかには,○○ハナバエというのも多いですし;^_^) この辺は篠永先生や、晩年の加納先生が、ほぼ修正されましたね。みんな○○イエバエになりました。一時期イエバエ上科の中の科の範囲がなかなか確定しなくて、和名がついた時期にはハナバエ科に入れられていたようですね。Fauna Japonicaの執筆時期にはこの問題が解消されてある程度時間が経過していたのですが、にもかかわらず修正されていなかったのは、和名の安定性を乱すことを懸念されたのかもしれません。 |
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