新訂昆虫大図鑑を見ていて,以前から思っていた疑問を思い出しました.
ベッコウバエは,従来Drymyza属とされていましたが,Ozerov(1987)でベッコウバエ科の再検討がなされ,属が大幅に変更されました. 旧北区の双翅目マニュアルや極東の昆虫の検索を見ると,ベッコウバエはNeuroctena formosaとなり,Kurahashi(1981)で記載された種類も全てNeuroctena属となるようです. さて,ベッコウバエ科については,倉橋氏が「はなあぶ」No.10で日本初記録の2種類を紹介していますが,カラープレートの写真は腿節腹面の剛毛などから上下逆だと思うのですが,訂正などの情報は出ていませんか? (おそらく,上2枚がNeuroctena analis,下2枚がParadryomyza spinigera.) ついでに,極東の昆虫の検索では,ハクサンベッコウバエ Neuroctena melanacmeが,エゾベッコウバエNeuroctena analisのシノニムとされていますが,情報不足で妥当性が不明です.
ベッコウバエの学名に対する市毛さんの指摘ありがとうございました.
市毛さんの指摘をみて,本種の担当が私であることに改めて気付いた,というようなわけで,無責任といわれればその通りということになります.他にもこのような不完全・不十分の箇所がままあることと思います.お気づきの点は是非ご遠慮なくご指摘いただければありがたいです. 言い訳がましいのですが,これまでもほかで指摘しましたとおり,本書の編集過程はどさくさというか,泥縄の代物もいいところで,いつの間にかベッコウバエ科までも(しかも本種は同一図版のほかのハエから見てもとても私の範疇ではないのに)私の担当ということになっているようです. もし,私がコメントしたとすれば(全く記憶してないのですが,どさくさでファックスで旧版コピーを送ってファックスで即返事が欲しいというような頼み方をしてきたこともあったので,その時かも),さしあたり学名や分布が九大農昆虫の目録に適合していたらそれで良し,とするくらいの時間的余裕のない状況での結果ということになります. 同書の双翅目(ハエ目という名称は末尾に示すとおり私は絶対反対:双翅目談話会はハエ目談話会にならないで下さい)の概説にしても,初めはっきりと私には頼まないと編集が明言しておいて,そのうち誰も引き受け手がなくなって,いよいよ原稿締切をとっくに過ぎてから私のところに泣きついてきました.本来断ってもよかったのだけれど,形態名などがかなり変遷していることもあり,仕方なしに無理して引き受けざるを得なかったというのが実情です. 終わりに,同書で双翅目をハエ目となっている点ですが,全体の統一方針ということであえて反対はしませんでした(賛成ということではありません).どの世界をみてもDipteraをFly order(英)とか,Ordre Mouche(仏)とか,Ordnung Fliegen(独)とか,Otryad Myxa(露)とか,蝿目(中国;台湾)とか言っているところはありません(これらのスペルにはちょっと自信なし).Order Diptera, Ordre Dipteres, Ordnung Zweifluegler, Otryad Dvukriylye, 双翅目(中),雙翅目(台湾)と自国語で呼んでいて,Dipteraを原語かそれぞれの言語に訳して本来の意味が通るように使っています.日本の文部省とそれに追随する軽薄な一部の御用学者がハエ目とかチョウ目とか勝手に決めていて(日本昆虫学会にさえも相談なし),しかもコウチュウ目といわずに甲虫目を使う輩さえも現われています.なんともセンスのない馬鹿げた話です.このチョウ目,ハエ目,などは私の知る範囲ではもともと大阪自然史博の日浦勇さんが通俗的な意味で用いていたものであって,いくら分りやすいと言っても,子供用ではまだしも官製「学術」用語にこれを使うというのは,思考放棄をさらけだしたようなものです. 私は片仮名を反対しているのではありません.私はBlattariaやEphemeridaをあえて難しい漢字ーーここにはかかないけれど読めばヒレンモクとフユウモクーーで書かなくてもblattaとephemeraがそれぞれゴキブリのラテン語,カゲロウのギリシャ語であるから,これはゴキブリ目とカゲロウ目でもいいと思います(系統的に極めて近縁なゴキブリ類とカマキリ類をまとめた”目”Dictyopteraは網翅目が妥当な和名で,官製幼稚名愛好者はどのようにするのでしょか.ゴキブリとカマキリのどちらを目名に採用しても相手からクレイムが来るでしょう). 序でに言わせていただければ(前にも書いたけれど),maxillary palpusを小顎肢とするように北隆館編集から強く要請されたけれど,これは小顎鬚で押し通しました. MaxillaがAppendage of maxillary segmentが(頭部を構成する)小顎節の付属肢,すなわち小顎肢であって,これはcardo, stipes, maxillary palpus, galea, lacinia等で構成されていて,maxillary palpusはこの付属肢(肢)の1構成要素に過ぎず,あくまでもpalpusは鬚(ひげ)なのであって肢(あし)全体ではないのです. こんな簡単明快な形態学の基礎も省みずに,鬚の字が難しいからどこかで中根猛彦先生が肢を使っていたから,これを採用した,というのが訳の分らない事情のようです.難しいのであれば,目の名称さえも片仮名書きがお好きなのだから,「こあごひげ」または「小顎ひげ」とすればいいのです.大体平嶋先生たちが著した「昆虫分類学」でもこの幼稚な官製用語を目名にして,九大農昆虫の目録でもこれを採用するから,多くの事情を知らない人々がこれに追随してしまうのです. 目に対するこんな局所短絡的な名称では,全体の有力形質が消えてしまいます.ハエのほかにガガンボ,ブユ,アブ,メマトイ(そしてマクナギ)など双翅目に属する昆虫にはハエ以外がたくさんあるわけですし,チョウ目に至っては日本人は英語圏と同様に蝶(butterfly)と蛾(moth)をかなり明確に区別しています.(カイコの成虫を,養蚕をしていた私の母などは「チョウ」とも呼んでいましたが).カメムシ目もひどいもので,セミ,ヨコバイ、ウンカ,アワフキムシ,カイガラムシ,コナジラミ,アメンボ,タイコウチ,タガメ,ミズカマキリ,カメムシなど枚挙にいとまない実態です.ハチ目,コウチュウ目,トビケラ目などは全体像(主要形質ではない)が見えても,ハエ目,チョウ目,バッタ目,カメムシ目はとてもいただけません. 長くなりましたが,この図鑑の刊行には晴らしがたい鬱憤がずいぶんとずっと貯まっています.
三枝様.
私もDipteraは双翅目と表記すべきだと思っております. 比較的大きな種類や斑紋などを備えた特徴的な種類だけでも同定出来ないか,自力で文献などを集めていますが,文献を集めるということが如何に時間と手間がかかるか染み染み感じております. また,日本産の双翅目に関連する文献でも,日本国内に所蔵されていない雑誌等が多数あり,海外の図書館からの複写は桁違いに費用が掛かりたいへんです. 実は,フンバエ科でも真偽不明のシノニム処置がされているらしい情報を見つけたのですが,出典であるDipterologica Bohemoslovacaという雑誌が日本に収蔵されていないため放置してます. 下記のFauna Europaeaのデータベースによると,ササカワフンバエParallelomma sasakawaeやギボシフンバエモドキP. hostaeがParallelomma vittatumのシノニムと書かれています. http://www.faunaeur.org/full_results.php?id=142806 Sifner, F. 1978. La revision synonymique des especes du genre Americina Malloch, 1923 (Diptera, Scatophagidae) Dipterologica Bohemoslovaca 1: 283-302 |
昨年の3月ごろに市毛さんが質問で出していた
トゲベッコウバエSteyskalomyza hasegawai Kurahashi1982 と思しきものを群馬県川古温泉で捕まえました。 新潟の三国峠でも見つかっているというので、これだと思いますが、お見立ていかがでしょうか。 ペットボトルでスズメバチを取るトラップがありますが、あれの昨年から吊るしっぱなしのがありまして、中の虫が腐っていたのでしょう、その中に何匹か新たに捕まってぶんぶんやっていました。
達磨様,こんばんは.
確かに,腿節末端が黒いことや,かすかですが全体に長いトゲがあるのが見えるので,同じ種類のようです. http://homepage3.nifty.com/syrphidae1/diptera_web/cyclorrhapha/Steyskalomyza_hasegawaiM.jpg 結構広く分布しているようなので,ハネカ同様茨城でも探して見たいと思います. |
お世話になります。
写真は私の住んでいる地域で大発生し、一週間くらい前からいたる所で見られるミズアブです。 体長8mm前後 写真左と中は♂で、右は♀です。(2008年4月 奈良県平群町で撮影) 以前このサイトでの質問で 無題 投稿者:Xespok 投稿日:2005/04/16(Sat) 21:57 No.1143 Do you know what is this species? として登場したものと同じだと思います。(BBSのワード検索"Actina"で出ます) その時のハエ男さんのコ メントは『複眼周りの毛の長さが長いのがActina』とありましが、今回、毛の写真が撮れました。 該当しそうなものにエゾホソルリミズアブがありますが北隆館図鑑で、エゾホソルリミズアブActina ezoensis は体長6.5mm内外となっていて、大きさが違います(平群産が揃って生育がよいのかもしれません が)。 あと、Actina nigripes というのがあるようですがどんなものか判りません。 どうかご教授ください。
平群庵様.
側面からの写真に写っている長毛は,額や顔の長毛です.♂の複眼が離眼的なことや顔の長毛から,恐らくActina属と思われます. Actina属だとすると,脚の色彩などからエゾホソルリミズアブ Actina jezoensis と思われます. Actina属の3種の違いについては,下記の文献に書かれております.A. nigripesは,後脚の基付節全体が暗色となります. http://nels.nii.ac.jp/els/contents_disp.php?id=ART0008228450&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=Z00000016288980&ppv_type=0&lang_sw=&no=1208870190&cp=
Nagatomi, A. and Tanaka, A.の日本産ActinaとAllognostaの論文のActina関係のkeyの部分をPDFにして添付しました.参考にしてください.多数採れるのならお送りいただければ交尾器などは検査できます.この論文のA. japonicaは今はA. deidamia Lindner, 1936のシノニムになっています.
添付:4485.pdf (93KB)
市毛様、アノニモミイア様、ありがとうございます。
おかげさまで一問解決しました。 しかし、その間にも見知らぬ虫に出くわします。 またその節はよろしくお願いします。 |
最近、今までに採集してあったニクバエの雌の腹部をKHOで処理して解剖し、同定を試みています。いくつかどうしてもわからないものもあるのですが、まじめに解剖すれば、かなりの個体がFauna Japonicaの生殖器の図で同定できそうです。
成熟した卵を持っている個体や産仔をひかえた個体だと蔵卵数も出せるので、生態学的に興味深い数値も得られてなかなかに面白いものです。たとえばシリタカニクバエですと最大22卵程度なのに対して、ナミニクバエだと同等のサイズなのに60を超えます。この差はすごい。センチニクバエは文献によると50ほど産むらしいので、人里で害虫化する種類は産仔数が多いのでしょうかね。 |
達磨です。
おそらく、これはElephantomyia hokkaidensis Alexander, 1924 "the"クチナガガガンボです。 原記載文を読むと大変よく似ているものにE. takachihoi Ito, 1948というのがいますが、まだ両種をよく勉強していないので、これまでえられている写真のようなガガンボは皆hokkaidensisと仮に同定しています。 秋にキク科植物(特にアザミ類)に集まり吸蜜するので、しばしば写真で紹介されます。
達磨さま
いつも、ご教示ありがとうございます。 クチナガガガンボElephantomyia hokkaidensisとして、記録させていただきます。 確かに、秋に キク科植物の花に集まっています。 特徴的なので、以前から気になっていました。 引き続き宜しくいお願申し上げます。 |
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