干潮の海岸。海藻の付着した岩場に体長約4ミリ程度のハエがたくさんいました。彼らのほとんどは忙しく歩き回っていました。また5個体くらいが絡み合うように団子状になっていることもありました。何バエでしょうか。
2009.3.10昼頃 三重県津市
海岸の磯に生息するTelmatogetonイソユスリカ属の1種でしょう.脈相が不明瞭にしか写っていないので,私には種の同定はできません.本属には場所によっては渓流性の種もあります.しかし,渓流に生息し,Telmatogetonに形態や行動がよく似ているのがDiamesaヤマユスリカ属です.早春から羽化しますので,渓流のぬれた岩の表面を走り回って雌を探している雄を観察できます.
Telmatogetonは海生のユスリカの1群で,成虫は飛翔かのうですが,われわれが観察するのはもっぱ磯を走り回っているすがたです.かたまりになっているというのは交尾したペアにほかの雄がまとわりついている状況ではないでしょうか. ほかに海生のユスリカはClunioウミユスリカ属がありますが,これはずっと小型で,雌は翅を欠き,雄はオドリバエ科のミナモオドリバエ属Hilaraの種のように水面を滑走するように飛翔して,雌を探します.凪いだ磯近くの海岸の海面を凝視して,白い微小な昆虫が水面を流れるように滑っている(実際は飛んでいる)のが観察できたら,それはおそらくClunioの雄です.ただし,Hilaraの中には海面で求愛餌の捕獲行動をとるものがあるので,Clunioと間違えるかもしれません. さらに,海生のユスリカにはPontomyiaオヨギユスリカ属があり,これも雌は無翅蛆状で,雄は翅が飛翔には適さない特殊な形に変形し,著しく長い脚を持っており,おそらくこれらを用いて海水面を滑走するのでしょう.この仲間は日没後に潮溜まりなどに現れるとのことですが,私は残念ながら観察したことがありません.紀州の沿岸にぎょう産するとの記述があります.
三枝先生のおっしゃられる通り、Telmatogeton(イソユスリカ属)の一種です。この属は日本から2種、T. japonica(ヤマトイソユスリカ)とT. pacificus(ミナミイソユスリカ)が知られています。紀伊半島ですとこの2種が混生している事があります。翅脈が判れば種の判定は可能です。一般にjaponicaに比べてpacificusは見た目、かなり小さく感じられます。また、紀伊半島ならイソユスリカ属の仲間であるハマベユスリカThalasomya(T. japonica:ヤマトハマベユスリカ)も見られるかも知れません。
イソユスリカは岩に付着した藻の中で、ハマベユスリカは潮溜まりの中で幼虫を見いだすことが出来るかも知れません。ハマベユスリカはしっかりと空間を確保できる容易な岩の隙間などで沢山の雄が集合して群飛します。 立て続けにユスリカの報告が出てきて、喜んでおります。
Thalassomyaです。
またまた訂正.Telmatogeton japonicusです。
三枝豊平様、エリユスリカ様、ありがとうございます。
種名が判明する可能性があるならと、翅脈を撮影したく、今日もイソユスリカたちに会いに行ってきました。 これらの写真で判らないようでしたら、捕まえてみようと思います。
いずれエリユスリカさんから専門的な回答があるでしょうが,翅のいわゆるCu fork(翅の後方に位置する二分岐した脈)の分岐点がr-m crossvein(Cu forkの分岐部の前方,翅の前縁に近くボヤーと暗色に見える斜めの短い帯に相当)とほぼ同じ位置ですから,ヤマトイソユスリカTelmatogeton japonicus Tokunaga でしょう.
なお,Cu forkの分枝の前の脈はM4脈,後の脈はCuA脈です.これらは従来伝統的にそれぞれCuA1, CuA2脈と同定されていた脈です.
Telmatogeton2種の図を示しておきます。三枝先生のご指摘通り、翅のfcuを矢印で示しました。これとr-m横脈との位置関係から2種を識別することが出来ます。参考にして下さい。
添付:5229.pdf (36KB)
三枝豊平様、エリユスリカ様、ありがとうございます。
イソユスリカについて、物知りになった気分です。 2種の比較図もすごく参考になりました。
三枝先生がオヨギユスリカPontomyiaのお話をされていました。海浜性のユスリカには色々なものが知られています。イソユスリカはイソユスリカ亜科というまとまった群となっています。また、ウミユスリカClunioはかつてはウミユスリカ亜科と言う一群が認められていたこともあります。現在はエリユスリカ亜科に包含されており、ニセビロウドエリユスリカ属Pseudosmittiaに近いとされています。エリユスリカ亜科の中にも幾つか、海岸で見られる種がいます。オヨギユスリカはユスリカ亜科、ヒゲユスリカ族に含まれています。また、ヒゲユスリカ属の中にも海浜性の種がいます。多岐にわたって海への進出が見られます。
オヨギユスリカ属は日本から2種が知られています。紀伊半島なら、セトオヨギユスリカPontomyia pacificaでしょう。私は、この種は観察したことがありませんが、西表島でおそらくサモアオヨギユスリカP. natansだと思うのですが、この種については実際に採集しております。時期は2月中旬でした。新月の夜8時ごろ、星砂ビーチです。真っ暗な中、懐中電灯を頼りに採集をしました。潮溜まりでは見ることは出来ませんでした。波打ち際で盛んに海水面を走り回っているのを見ています。極々狭い範囲を活発に動いていました。残念ながら、雌を採集することは出来ませんでした。紀伊半島なら成虫を観察することが出来るかも知れません。ただ、大変小さい、1ミリちょっとの大きさですので、注意しなければ見逃すかも知れません。 知り合いから、頂いたセトオヨギユスリカの雌の写真を貼付しておきます。
言い忘れましたが、幼虫は昼間、潮溜まりで採集致しました。ですから、潮溜まりでも活動しているのかも知れません。
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