この画像はオドリバエ科のミナモオドリバエ属Hilaraの1種の雄です。Hilara pachyneura種群に属することは画像からほぼ間違いないのですが、正確な同定は雄交尾器を調査する必要があります。もし、余分の標本がありましたらお送りください。
ここで、H. pachyneura種群と仮に呼んでいる1群は、胸部背面に強い剛毛を欠き、腹部も短い軟毛で覆われているもので、一般に翅脈が太く、しばしばR4脈とR5脈が広い角度で離れていく傾向があります。日本列島にはこの種群が私が持っている標本でも10種ほどありまして、それでも依然としておりおり新しい種が見つかります。 ミナモオドリバエ属(ナガレオドリバエ属とも言います)は主に流水、時には止水の水面に脚をつけるほど接近して水上飛行機の水面滑走のように飛翔しながら、水面に浮かぶ、あるいは羽化した軟弱な昆虫をとらえて、これを多くは前脚の第1付節から分泌する繊細な糸状の物質で荒く包んで、群飛中に雌に渡して交尾を空中で続けます。少数の種では交尾中に静止する、求愛餌なしで交尾する、夕暮れから夜間に活動する、渓流のぬれた石や岩の表面で求愛餌を探す、などの行動が見られます。 群飛での採集は容易ですが、水面滑走中の雄はネットをぬらさないで採集するのは簡単ではありません。かなりの種が雌雄共に花を訪れて吸蜜し、活動エネルギー源にしているようです。
Hilaraとしては大変珍しい状況の写真ですね。この画像を見た一瞬、撮影のアングルもありますが、これがHilaraとは思いませんでした。本属が静止している状態は、葉の上か沢の縁の岩陰など(一部の種は花の上)で、今回のような湿った岩上の状態は見たことがありません。
おーやぎさんからお送りいただいた標本を雄交尾器を含めて精査したところ、当初推定したとおり、この種はHilara pachyneura Freyでした。
本種はR. Freyによって1955年に、フィンランド昆虫学会の機関誌Notulae Entomologicae 35:6-8にわたって、伊藤修四郎先生により長野県美ヶ原(Japan, Honsyu: Sinano, Utukusiguhura, 1,400m[原記載の原綴])で1953年5月19日に採集された多数の雌雄(Mehr.♂♀)に基づいて記載された種です。その後、日光、広島県芸北高原などの標本を検しています。 本種は中型ないしやや大型のHilaraで、体は黒色、胸背は灰黒色粉で密に覆われ、前方からみると黒い1対のdc条とその外側のやや太い条が現れ、胸背の刺毛は短く、毛状;雄の前脚は強い剛毛を欠き、前脚第1付小節は中程度に膨らむ;腹部は暗灰色粉で密におおわれ、淡色の短毛を生ずる;翅の翅脈は太く、黒色。このような形質の組合せを持っています。近似種からは雄下雄板突起の先端は大きく二叉し、それぞれがまた鋭い2突起に分かれているので、識別できます。種名のpachyneuraは言うまでもなく太い翅脈に基づいているのでしょう。 本種の配偶行動は私は観察したことがありません。 |
おーやぎ様。お元気で青森県北部の生物の観察・撮影をされているご様子ですね。
さて、この画像のオドリバエに似たものは、Planempis亜属とPolyblepharis亜属があります。メスの場合には両属はきわめて類似していて、なかなか画像では識別が難しい面があります。Planempis亜属は日本列島では著しく種数が多く、もし、Planempisであっても種までの同定はかなり難しいです。Polyblepharisですと本州の種数は数種ですから種の同定は可能です。 画像でみますと、翅の基半部が著しく黄色味が強いのですが、これは自然の色彩を的確に現しているのでしょうか。 脚の色彩や羽状剛毛の長さや生えている範囲などを、画像から判断して同定する必要がありますので、しばらくお待ちください。 |
ケンセイ@双翅目談話会関東事務局です。
双翅目談話会では今年度の関東調査会として、青梅市小曾木地区の調査を行うので、お知らせします。 ○双翅目談話会関東調査会 ・日時 2009年6月6日(土)雨天の場合は翌日に順延 ・場所 青梅市小曾木地区 ・主な狙い 特になし。湿地性の双翅目などが確認出来れば良いと思います。 ・集合場所と時間 参加人数により調整する必要があるので、参加希望の方は私までお知らせください。今のところ私を含めて3名が参加予定です。 ケンセイ |
突然の投稿で失礼します。
私、某大学4年生でツバメの糞分析を卒業研究でやっている者です。糞の中から昆虫の頭部の残骸(口器や触角はない)を見つけ、目レベルで分類する研究です。 そこで誠に恐縮なのですが、皆様に質問したいことがございます。膜翅目と双翅目の識別をするとき、頭部(顔盤と眼)の特徴のみで識別することは可能でしょうか? 図鑑などを見ても、頭部での分類についての記載はなく、私も昆虫について素人なため、全く手が出せずにいます。どなたか教えて頂けると大変助かります。勝手なお願いで申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
双翅目と膜翅目の識別と言う点からは、
1.双翅目の額嚢類(いわゆるハエを含む)では顔板の周囲を逆U字型に取り囲む額嚢溝があります。これがあれば間違いなく双翅目である。しかし無額嚢類(ハナアブ類など)や直縫短角類(アブ類)と糸角類(カ、ガガンボ、ブユなど)はこの構造をもたない。そのために、額嚢溝がないから双翅目ではないということではない。 2.膜翅目はいずれも発達した大顎(大腮)をもつ。そのために、大顎は頭蓋に関節するために前後2個の関節突起をもつ。この関節突起を受ける構造が、頭蓋側面(頬=複眼の下方)の下(腹)側の縁にある。双翅目で大顎をもつのはごく少数で、もっていても膜翅目のように顕著な2関節構造をもたない。 というような区別点は指摘できますが、実際にこれらの構造を壊れた材料で確認するためには、はっきりしたガガンボ科、アブ科、クロバエ科、ハバチ科、ヒメバチ科、アシナがバチなどを解剖してみて(KOHの10%水溶液に一昼夜浸漬することで、体内の筋肉内臓が溶解して、外骨格が残る。これを十分い水洗して、実体顕微鏡で観察する。先端の尖ったピンセットが2本必要である。KOHは強アルカリ)、上記構造を理解しておく必要があるでしょう。
ありがとうございます!大変参考になりました。
たしかに、関節突起を受ける構造を複眼の下方に持つ頭蓋が、糞の中から多く見つかりました。 比較用の標本も今集めているので、解剖してみて、教えて頂いた構造を確かめてみたいと思います。 丁寧に教えて頂き、どうもありがとうございました。 |
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