![]() さて今年の夏に、水生植物の葉の上に多数のハエがとまっており、翅脈がアシナガバエに似ていたので採集してみたらミギワバエでした(素人目にはよく似ているように見えました)。 また採集の際に、一頭ダニに寄生されたミギワバエがふらふら歩いているのを見つけたので、動画も撮ってみました。寄生されるとじっとできなくなるものなのかと興味深かったです。 http://www.youtube.com/watch?v=M-cQX19k4pY せっかくなので種名も知りたいと思ったのですが、ミギワバエを調べる文献で手に入りそうなものがなく、なかなか同定に困っております。Fauna Japonicaや環動昆の検索表は入手困難であるようですが、亜科への検索表や属への検索表といったもので、入手しやすいものはなにかありますでしょうか。もしご存知であればご教示ください。 ちなみに写真がそのミギワバエです。No.7060で紹介されていた種に近い印象ももちますが、なにか違和感があります。この写真だけでは同定は不可能に近いと思いますが、採集は7月21日、神戸市です。体長約4mmです。
Campsicn様.
現在,日本のミギワバエ科を的確に属まで落とせる文献は,環動昆の検索表しかありません.Fauna Japonicaも役に立つ文献ですが,当時とは分類がかなり変わっているので注意が必要です. 写真のミギワバエは,Setacera属かEphydra属と思われます. また,動画を見てみましたが,時折,白い有機物を摂食していると思われる行動が見られますので,ダニの影響でふらふらしているのではなく,葉上の食物を探索しているようです. ![]() ミギワバエ好きのケンセイです。 私も市毛さんと同じくSetacera属かEphydra属ではないかと思います。 ちなみにそれぞれの属のkeyを以下に示します。 Setacera属・・・orは2本でfr frontal setaを欠く。触角第3節の外側に長毛がある。小楯板前のacrを欠く。 Ephydra属・・・orは3〜4本で1対のfrを有する。触角第3節の外側に長毛を欠く。小楯板前のacrがある。 何を言っているのかさっぱりわからないと思いますので、絵解き検索の図を以下に示します。参考になれば幸いです。 ![]() Campsicn様. Ephydra japonicaの写真を撮影してみました. 赤矢印がor(上額眼縁剛毛),黄色矢印がfr(額剛毛)のsocket(毛穴),青矢印がacr(中剛毛)のsocketです. P.S. 撮影機材 EOS Kiss X4+OM Autobellows+Zuiko38mm,制御システム StackShot+HeliconRemote,深度合成 Heliconfocus ![]() やはり環動昆のものくらいしかないのですね。六本脚でも売り切れているようですし、所蔵している図書館などもなさそうなので、今となっては入手が難しいようですね。 Ephydra japonicaの写真まで用意して下さり、ありがとうございます。部位の名称はいつもどこがどれだったか迷うので、大変ありがたいです。 ケンセイ様 属の区別点をお示し下さりありがとうございます。絵解き検索の図も大変参考になりました。 改めて標本をチェックしてみたところ、orが2本、frを欠く、触角第3節の外側の長毛がある、acrを欠くというように見えますので、Setacera属ではないかと思います。見づらいかも知れませんが、写真も改めて撮影して見ました。いかがでしょうか。
Campsicn様
画像拝見しました。Setacera属で良いと思います。 Setacera属の場合、概ね以下のではないかと思います。 画像がミギワバエ科図鑑にありますのでご確認下さい。 http://homepage3.nifty.com/syrphidae1/diptera_web/Ephydridae_plate_css.htm Setacera breviventris (= Setacera fluxa) 本種は河川敷などのボックスライトで良く採集されます。ボックスライトで採れるミギワバエ科の代表種というイメージがあります。 ![]() ミギワバエ科図鑑拝見致しました。写真は♀のようでしたので、同じ時に採集した♀の標本と比べてみましたが、特徴はほぼ一致しているように見えます。写真ではR2+3脈が端まで届いていないようですが、おそらく個体差なんでしょうね。 写真はその♀の腹部ですが、ウミユスリカさんが提示されておられたS. viridisの♀とは腹部が異なるようですし、今回採集した個体については、S. breviventrisとしたいと思います。なかなか種名まで行き着くことが少ないので、今回は種名までわかって良かったと思います。 本当にありがとうございます。
Campsicn様
S. viridisの分布はファウナヤポニカによれば北海道となっているので、本州のSetacera属は概ねSetacera breviventrisで良いと思われます。概ねとしたのは、未記載種や日本未記録種の可能性もあると思われるためです。
ケンセイ様
なるほど、日本のSeracera属はその2種くらいしか知られていないんですね。しかし比較的解明度が高いとされているミギワバエ科でも、まだまだ未記載種や未記録種がいる可能性があるというのはなんとも面白いです。私にできることは少ないかも知れませんが、双翅目の研究がさらに進んでいくことを願ってやみません。 また何かの折に質問させていただくことがあるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。 ![]() 岡山平野でも、S. breviventrisと思われるミギワバエがたくさんとれています。 7月に河川敷に設置したBOXライトトラップでは、1基あたり800個体以上が入っていたところもありました。 環動昆の検索表は持っていますが、Fauna Japonicaは持っていません。 とりあえず属まで落とし、ここの板で検索してたどり着きました。Campsicn様の掲載された種と同種ではないかと思います。 いかがでしょうか?
斉藤@岡山様.
Fauna Japonicaと極東の昆虫の検索を読んでみましたが,どちらも♂交尾器が区別点となっています. したがって,解剖しないとS. viridisとS. breviventrisは区別出来ないようです. なお,参考文献としてはMathis(1982)Studies of Ephydrinae (Diptera: Ephydridae), VII:Revision of the Genus Setacera Cressonが閲覧できます. http://si-pddr.si.edu/jspui/bitstream/10088/5662/2/SCtZ-0350-Lo_res.pdf
茨城@市毛様
ありがとうございました。 サンプルはたくさんあるので、頑張って交尾器を取り出してみようと思います。 アナバチヤドリニクバエのように木っ端微塵にならんよう、今度は液浸にしてから解剖します。 ![]() 本種については、ちょうど私の方でも余剰の個体があり、交尾器の解剖の練習材料にしようと思っていたところでしたので、これに便乗して改めて確認して見ました。 三角紙の管理が甘く、虫食いがあったのですが、一応交尾器は形をとどめていましたので、腹部を外してみました。 写りはあまり良くありませんが、Mathis(1982)を見るかぎり、S. breviventrisの特徴とかなり一致するのではないかと思います。この個体では交尾器の先端を引き出したりはしていませんが、そのようにしたほうがより確実でしょうか?
Campsicn様.
これは,Campsicnのご指摘通りS. breviventrisで間違いありません. 従来,S. viridisについては,北海道に分布するとされていましたが,Mathis(1995)World Catalog Shore Flies(Diptera : Ephydridae)では本州が追加されています.そのため,日本産昆虫総目録などに記されている分布をもとに,S. breviventrisとすることには問題があることに気づきました. ハナアブ科でも,朝鮮半島-対馬ルートで中国地方に渡来したと思われる種類が見つかっています. ![]() 同じ場所でとれた♂の腹部をはずして水につけ、交尾器を取り出してみました。 片方の突起が壊れてしまいましたが、Mathis(1982)のS. breviventrisの特徴とも一致するのではないかと思います。
茨城@市毛様
ありがとうございます。はっきりとS. breviventrisであると確認できてよかったです。斉藤@岡山様の個体も、私のものと非常に似ているようですね。少なくともS. viridisではないように見えます。 S. viridisが北海道で見られるということは知っていましたが、本州でも確認されているんですね。 温暖化か何かで生息範囲が変化したのか、単純に混同されて見落とされていたのかはわかりませんが、これからはSetaceraを見かけても、すぐにS. breviventrisとしてしまわないよう心がけたいと思います。 本年もまた何かの折に投稿させていただくと思いますが、よろしくお願いいたします。 |
う〜ん・・・お尻のふくらみ具合とifとofがちょっとしょぼい気がして迷うのですが、角度のせいでしょうか?。後胸前側板に細毛があるならトウキョウキンバエなのでしょう。
過去に、この掲示板にトウキョウキンバエの標本写真を投稿していますので、ワード検索で探してお手元の標本と見比べてみて下さい。
猫又様
コメントありがとうございます。 過去の画像と比べてみました。 お尻の膨らみは、実はよく似ています。 載せた写真では、撮影の際に虫ピンで押さえつけているため、へこんだ状態になってしまいました。 ifとofは、確かに過去の投稿写真のものは立派で、この個体は小さい気がします。 個体差の範囲でしょうか? 猫又様のご指摘で、どんなところを写せば、同定根拠となるのか、大変参考になりました。 ありがとうございました。 |
![]() 交尾器を出そうとしたのですが、腹節が半分ちぎれて、うまく出てくれず、撮影できませんでした。 さすがに、この写真での同定は無理でしょうか? 岡山平野の河川敷で7月に採集したものです。
斉藤@岡山様.
恐らく,写真のニクバエはMiltogramminae亜科というグループの1種だと思います.このグループのニクバエは,Sarcophaginae亜科に比べ交尾器が小さいので取扱に注意する必要があります. http://furumusi.aez.jp/wiki.cgi?Sarcophagidae019
市毛様
ご教示ありがとうございました! サンプルはまだ冷凍したままにしているので、頑張って小さな交尾器を出してみようと思います。
斉藤@岡山様.
inner forcepsの形状がわかりらないのと,一部交尾器が破損しているのようですが,とりあえずハチノスヤヤドリニクバエに一票. ![]() これは、アナバチヤドリニクバエ Protomiltogramma fasciata だと思います。 以前採集したアナバチヤドリニクバエの標本の写真をハードディスクのすみっこから発掘して、ようやく見当が付きました。ああ、記憶力が衰えている〜〜 ということで、参考として画像を貼っておきます。新潟市2009年7月23日採集です。ゲニを開くときにcercusの先端を折ってしまったので、不完全体です。ごめんなさい(汗)。 それで、No.7398の画像を見ると、豪快に壊れているようですが、右に出ている細い部分がcercus(if)で、下に広がっているのがsurstylus(paralobeもしくはof)ではないかと。ハエ男さんのおっしゃるところの「くの字状に曲がった陰茎先端より細い陰茎突起が変わった方向に伸びている」部分は見当たらないので、そこはまだ腹部に残っているのではないかと思います。それが確認できればいいのですが。 あと、アナバチヤドリニクバエはKurahashi(1970)に Pterella fasciata fasciata アナバチヤドリバエの名前で載ってます。検索表で特徴が合っているかどうか確かめてみるとよいでしょう。 ゲニ図はfig.17(paralobiとcerciの側面図)のみです。 下記でダウンロードできます。 http://ci.nii.ac.jp/naid/110003499824
猫又様,フォローありがとうございます.
一度乾燥させた標本や,冷凍標本から交尾器を抜く場合,腹部ごとカリで煮てから解剖するのが一番安全ですね. 交尾器が体液で腹板に固着している場合が結構あるので,湯煎して軟化しただけで無理やり交尾器を抜くと変形したり,一部が欠損したりするので,絵合わせが困難になりがちです. 余談ですが,昨年末から部屋の模様替えをしているもので,大半の文献が自宅にないので回答も大変な状態です. (11月に特注の標本ダンスを3箱追加購入して,500箱強のインロー箱を収納できるような体制にしました.その代り,文献を置く場所が減ってしまい,どのように収納すべきか悩んでいます.特に,現在ではB5版サイズの本棚が全く売っていないので,無駄なスペースが多くて,今までのようには収容できず困っています.) 今後も,フォロー宜しくお願いします.
皆さま おはようございます.さんごです.
せんえつながら私もアナバチヤドリニクバエに1票入れさせていただきます. parafrontaliaなどの毛の生え方もよく似ているように思います. 頭部の写真でfronsやparafrontaliaの色がすこし気になりますが,見る角度にもよりますので・・・ なお,HK博士はP. fasciataは大陸産の別種で,本邦産アナバチヤドリニクバエはP. stackelbergiであると言われていました. ![]() 確かに「旧北区の昆虫の検索」でVerves & Khrokaloは,日本に分布しているのはP. stackelbergiと記していますね. 原文 1. Кр. ♂ без затемнения в ср. части. Лоб ♀ в серебристо-белом налете .................. 2 - Кр. ♂ в ср. части затемнены (рис. 42,1). Генит. - рис. 42, 2. Лоб ♀ в золотисто-желтом налете. 5.0-8.5. Лич. в гнездах сфекоидных oc Liris japonica, Sphex argentatus fumosus, S. flammithri¬chus. Песчаные пойменные участки. Июль - август. - Ю Хаб., Амур. - Япония (острова Хон¬сю, Кюсю, Сикоку, Исигаки); Ориентальная обл. (Тайвань) .......... Р. stackelbergi Rohd. 2. Терг. бр. со сплошной заднекрайней темной полоской. Генит. - рис. 43, 1. 4.0-10.0. Лич. в гнездах сфекоидных oc (Bembix, Philanthus, Stizus). Имаго на цв. и пади тлей. Песчаные участки пойм и опушек лесов, обочины дорог. Сер. июля - кон. августа. - Ю Прим.; Чит., Бур., Алтай, европ. ч. России. - Монголия, С Китай, Каз., Ср. Азия, Закавказье, Ближний и Ср. Восток, Ю и Ср. Европа, Канарские о-ва, С Африка .................... Р. fasciata Mg. - Терг. бр. с разделенными участками светлого налета вытянутым мед. пятном и лат. полосками. Генит. - рис. 43, 2. 6.0-10.0. - Псаммофильный ксерофильный вид. - Чит., Бур.; ЮВ европ. ч. России. - Монголия, С Китай, Каз., Ср. Азия, Армения .............. Р. jaxartiana Rohd. 直訳文 1. ♂の翅の中央部に暗色斑を欠く.♀の額は銀白色の微毛を装う.・・・・・・2 - ♂の翅の中央部に暗色斑を備える(図42.1).交尾器は図42.2.♀の額は金黄色の微毛を装う.5.0-8.5mm.幼虫は,ジガバチ?の巣 Liris japonica, Sphex argentatus fumosus, S. flammithrichus. 砂の平地.7-8月.南ハバロフスク,アムール地方,日本(本州,九州,四国,石垣島);東洋区(台湾)・・・・・・・・・Р. stackelbergi Rohd. 2. 腹部背板後縁に連続的な暗色斑を備える.交尾器は図43.1.4.0-10.0.幼虫はジガバチ?の巣 (Bembix, Philanthus, Stizus).成虫は,花や腐った蜜. 湿地牧草地の砂地や林縁,道端で見られる.7月中旬-8月末.南沿海州,チタ地方,ブリヤート自治共和国,アルタイ,ヨーロッパ部ロシア.-モンゴル,中国北部,カザフスタン,中央アジア,トランスコーカサス,---南及び中央ヨーロッパ,カナリー諸島,北アフリカ・・・・・・・P. fasciata Mg. - 腹部背板に分割された明るい微毛による長い中央斑紋と側部斑紋を備える.交尾器は図43.2.以下省略. 確かに,ヨーロッパのP. fasciataの写真を見ると,翅は全体的に透明ですね. ![]() 派手に破壊してしまった腹部から、陰茎突起ではないかと思われる破片を回収しました。 これがその部位だとすれば、猫又様の標本写真、市毛様が示していただいたP. stackelbergiの図とよく似ています。 猫又様に教えて頂いたKurahashi(1970)の検索でも、アナバチヤドリニクバエに落ちました。 結論として、この個体は アナバチヤドリニクバエ Protomiltogramma stackelbergi (Rohdendorf, 1935) ということですね。 皆様、色々とご教示いただき、ありがとうございました
> さんごさま、市毛さま
あらま〜、日本産はP. fasciata じゃないんですね。 貴重な情報ありがとうございます。 確かに、翅の色も、陰茎の形状も、stackelbergiの方に一致してますね。 納得です。 > 斉藤@岡山さま 種まで判明してよかったですね。 ゲニが起こしにくい時は、市毛さんのおっしゃるように、腹部を外して処理した方がよいと思います。私は薬品をそろえるのが面倒でアルカリ処理はしていませんが、腹部の根元からはずす、あるいは第5節から先を切り、水やエタノールで1〜2日くらいかけて軟化し、節間の膜質部からそーっと切り開いてみています。ゲニを起こせない原因に、汚れなどもありますが、筋肉が硬直していることもありますので、薬品処理をした方がより簡単に解剖できるのは間違いありません。 |
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