お世話になります。
沖縄県国頭村西銘岳(2014.12)で夜間灯火で採集しました。体長は6mmです。 三枝氏のオドリバエ図解検索表で検索した結果、Phyllodromia 属にたどりつきました。 検索の経過は以下の通りです。 1.前脚は捕獲脚に変形している→54.翅にR4脈を欠く→57.翅は中室を欠く→58.翅のM2脈はその基部が存在し、M1脈と分岐する。 顔が細長く、複眼も細長いです。また、腹端の形状から雌だと思われます。 同定・ご教示、よろしくお願いします。
残念ながら,これはオドリバエ科ではありません。触角を見れば分かるように長角亜目のケバエ科の雌です。Bibio属ですが,この時期に沖縄で発生するのはBibio ryukyuensis Hardy et Takahashi, 1960でしょう。色彩の記載は画像に良く合います。本種は1月から3月まで採集されていますが,原記載に用いた標本はRyukyu Is.だけで,正確な産地は分かっていません。原記載の後脚の図では後脛節が今回の画像よりやや先に向かって肥大し,付節もかなり太目です。しかし,原記載の後脚の図の性が示されていないので,あるいは図は雄で,雌は今回の画像のように細いのかもしれません。
オドリバエ科の触角は第1,2節が短く,第3節は長さが多様で,その先には糸状ないし筆状の触角刺毛が付いています。ケバエでは第1,2節の先には少なくとも数節以上に分節した鞭節が付いているので,長角亜目のものと分かります。 新訂原色昆虫大図鑑第3巻の双翅目の概説にこの目の成虫の形態の概要と,科の検索表があるので参照されたらいかがですか。
アノニモミイア 様
早速、触角を実体顕微鏡で観察しました。この個体の触角は、ご教示のように鞭節がついています。オドリバエ科とケバエ科の触角の説明は大変勉強になりました。 ご教示ありがとうございます。
昆虫の触角について,私が2種類の名称体系を混用したので誤解があるようです。
一つは,根元から第1(触角)節(1st antennal segment,1st segment,以下同様),第2(触角)節,第3(触角)節と順次番号を付ける名称。 もう一つは,根元から,柄節(scape:第1触角節に相当),梗節(pedicel:第2触角節に相当),鞭節(flagellum:第3触角節から先端まで)の形態学用語があります。なお,鞭節はそれ自体が一つの節と考えられ,それがほとんどの昆虫のように多数の小節に分節しています。鞭節が分節した一つ一つが鞭小節(flagellomere)です。 ですから,第3(触角)節は通常は第1鞭小節(1st flagellomere)に相当しますが,触角の形態進化上では基部にある複数の鞭小節が融合して単一の節に見える場合もあります。 オドリバエでは,第1(触角)節(柄節),第2(触角)節(梗節)の先に第3(触角)節(第1鞭小節)があり,その先に触角刺毛(antennal aristaまたは単にarista)または触角筆節(antennal style)と呼ばれる2小節から構成された構造があります。オドリバエの触角刺毛または触角筆節の基部の節を第2鞭小節,先の部分を第3鞭小節とみることができます。環縫類(ハナアブやさらに高等ないわゆるハエ類)では触角刺毛(これらの群では触角筆節の形状を取ることは稀)は3節から構成されています。 ケバエなどの長角亜目では,柄節,梗節のさきに多数の鞭小節に分節した鞭節が続きます。ガガンボやキノコバエなどのように鞭小節が細長くてそれぞれの境界が分かりやすいものと,今回のケバエやブユ,ニセケバエ,などのように鞭小節が大変短くて鞭節が全体として圧縮されたように見える群もあります。 一方,短角亜目の中でも,オドリバエや環縫類に含まれる多くの高等ハエ類のように鞭節が大型の第1鞭小節(第3触角節,第3節)とその先の触角刺毛に変形している場合はわかりやすいのですが,多くのアブ類のように数個の鞭小節が圧縮(さらに部分的融合)された触角筆節を形成しているものや,キアブ,クシツノアブのように,外観は長角亜目の触角とほとんど違わないように,多数の同形の鞭小節から構成されているものもあります。 ですから,オドリバエ科でもケバエ科でも梗節(第2触角節,または第2節)の先に鞭節が付いていることは同じですが,鞭節の構造が異なるということです。あなたが「鞭節がついています」と書き込まれたので,誤解がないように詳しく説明しました。更に詳しくは新訂原色昆虫大図鑑第3巻等の双翅目の概説を参照ください。
アノニモミイア 様
触角についての詳細な解説、ありがとうございます。大変勉強になりました。これからは、触角の観察を怠らないようにします。そのためにも、新訂原色昆虫図鑑第3巻を何とか入手したいと思います。 ご教示ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。 |
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