中国蝿類の2256,2257ページの検索表を見ました。
1(0) 翅は発達し、正常な飛行能力を具える。
2(1) 脚の爪は簡単で、外見は2片に裂け、肩甲は角状ではない。
3(2) 翅は(羽化後即脱落する)透明で、明瞭な3本の縦脈と1本の斜めの横脈があり、
額の長さは額の幅より小さい。
腹部背面に明瞭な中央骨片がある。
これでLipoptena属になります。
飛行能力があるかどうかや翅が脱落するかどうかは分からないのですが、
翅があったとしても飛べないという選択肢にすると、6(1)で、爪が2裂片で、翅を欠く、という所でつまずきます。
Lipoptena属は1種しか収録されていないのに検索表で部分に分かれるというのは、脱落前と後の違いだと推測すると、
上に書いたような選択肢でよいかと思いました。
捕まえてから4日たって死にましたが、それまでの間、後脚で翅を前から後ろに向かってぬぐう動作もしていたので、
少ししか使わない翅でも翅づくろいをするようです。
Diptera,infoで見てみても、Lipoptenaに似ていると思いました。
しかし最後の腹部背面の中央骨片というのは分かりませんでした。
科の説明で、腹部の分節は明らかでないとか、属の特性で、腹部は大部分は膜質とか書かれているので、
腹部背板に見えるのが、シラミバエ類では特別という事なのでしょうか。
はなあぶ35号の59ページを見ると、Lipoptena属は日本では3種が知られていることが分かりました。
CiNiiでLipoptenaで検索すると10件出てきます。手っ取り早く図がないかどうか見ていくと、
Mogi (1975)は、L. sikae の記載論文ですが、各部分の図が載っています。
藤崎ほか (1993)には、L. fortisetosa が載っていて、こちらの胸部背面の図のほうがかなり似ていると思いました。
この中にも「腹部中央背板は明瞭で均一に分布」というくだりが出てきます。
記載論文のMaa(1965)は見ることができていません。
残る一種はL. japonica ですが、
はなあぶ28号にもシラミバエ関連の記事があり、参考文献にはPasific Insectsが載っていたので、ホームページで検索しました。
Maa (1967)の検索表の19(3)で、
中胸背板mesonotumは各側で+-45本の刺毛に幾分等しく被われ、パルプが触角のピットのほとんど2倍で、頭と胸の長さが2.5mmなのが、L. japonicaで、
各側がとても不揃いに+-15本の刺毛で被われ、パルプが触角のピットとほぼ等しい長さで、頭と胸が1.3mmなのが、L. fortisetosaです。
左半分の刺毛を数えて、小盾板は入れず、背側板の6本も入れず、翅後刺毛の2本も入れず、14本とカウントしましたが、数え方はあっているでしょうか。
パルプについては、最初は黒く見えているのが普通の口吻だと思っていましたが、
北龍館の 新訂 原色昆虫大図鑑 第III巻の検索表の71で、「小顎鬚は細く、口吻を覆う鞘のようにこれに添えられる」とありました。
触角のpitについては、Diptera.infoでははっきりとした穴が見えるものがありますが、
今回は触角がぴったり張り付いているように見えるので、これが半ば埋まっている状態なのだと思いました。
パルプの隠れている部分の長さは分からないですが、触角の長さとほぼ同じだと思いました。
L. fortisetosa ヒメシカシラミバエのようです。
採集地でサルは見たことがありますがシカは直接は見ていません。しかし素人目に丸い糞が落ちているので、いるかもしれないとは思っていました。
海津市のホームページを見てみると、生息しているようです。
もう一度CiNiiに戻って見ていくと、分類や生態についていろいろ書いてあります。
一番驚いたのは捕虫網に飛来する話です。(山内ほか(2006)、中山(2007))
(大石(2001)はなあぶ11号は入手していません。)
中に入り込んで後で気づいて採集できたのは運が良かったにしても、習性の一つとして観察されているというのにびっくりしました。
体験できたのが少しうれしかったです。
滋賀県や三重県から報告されているので岐阜県にいても不思議ではないと思いました。
しかし初記録の報文などを見ていると、特定の地域の報告例があるかないかを調べるのはとても難しいことだろうなと思いました。
何かコツはあるのでしょうか。
よろしくお願いします。
大宮様.
誰もコメントしないようなので,解る範囲で書いておきます.
まず,大石(1999)でのL. japonicaの♂の図を貼っておきます.L. japonicaは他の2種に比べ,かなり剛毛が多いようです.
腹部背面の中央骨片については,乾燥標本では腹部が縮むため見えなくなることが良くあるようです.
各地方での採集例を調べるのは,非常に大変です.
一般的な昆虫であれば,下記のような本を調べると大体のところが解ります.
・「○○県の昆虫」とか「○○県の自然」等の目録,市町村単位で発行されている場合もある.
・その他,県立図書館などの郷土図書コーナーの色々な自然関係の書籍.
・月刊むしや昆虫と自然・新昆虫等のバックナンバー,や同好会誌紹介の目次.
・原記載論文等のデータ.
・分類群の専門誌のデータ.
・採集地周辺の同好会誌
その他,鳥海書房等自然史に強い古書店の目録に色々な調査報告書が載っています.
地方同好会誌というのは入手し辛いので,甲虫を調べていた時代は,茨城及び隣接各県の同好会や甲虫関連記事が多い福井・越佐・神奈川・北九州・静岡等20以上の会に入っていました.,
双翅目の場合は,これらの資料を丹念に調べてもあまり出てきませんし,しばしば明らかに間違っていると思われる記録もあり注意が必要です.
岐阜県であれば,1982年に発行された「岐阜県の昆虫」に一部の双翅目のリストがあります.その後の情報としては,「岐阜県の昆虫に関する文献目録1889-1999」や「宮村史 自然編」があります.
シラミバエの場合,同定自体が難しいので,殆どの情報は茂木幹義氏に集まっていると思います.
茨城@市毛様
コメントありがとうございます。
3種目の図を出してくださり、L. japonicaも、刺毛配列が他と違っていることが確認できました。
出そろって、やはりL. fortisetosaだと思います。
中央骨片については、もしまた採集できたら、乾燥前によく見てみたいと思います。
採集例の調べについては、本当に大変そうですね。
報文の背景にいろいろアンテナが張り巡らされている様子が分かりました。
たくさん会に入ってみえたというのを聞いて、もしも平均するとほとんど隔週刊誌のように会誌が届くというのは想像しただけでも楽しくなります。
岐阜県の情報についても挙げて下さりありがとうございます。
どこまで追跡できるか分かりませんが、調べてみたいと思います。
ありがとうございました。
北海道を登山された方から刺咬症の相談を受けました。捕獲した虫を持参されていたのですが、陸上選手のような脚のハエは初めてでした。原色昆虫大図鑑で最も似ていたのが、ケブカクモバエ。インターネットでシカシラミバエを知り、すぐにこちらのサイトにたどり着いた次第です。ほかの要因も考えられますが、まずは持参された虫の正体がわかり感謝いたします。
保健所オヤジ様
「陸上選手のような脚」というのはなるほどピッタリな形容ですね。どこか面白味もあります。
僕は文献を通り一遍見ただけで、人に飛来した時は比較的すぐに飛び去るという印象を持っていました。
もしシカシラミバエが原因の可能性があるなら、場合によっては人も刺すかもしれないと思っておいたほうがよいことになります。
いずれにしても、採集例を話題としてあげてくださり、ありがとうございます。