梅雨明けがずいぶんと遅くなっていますが,虫の世界は盛夏に入っているようです。これからの季節,私たちの身近の草地ではイエバエ科のクキイエバエ属Atherigonaやハナレメイエバエ亜科のハエ達が繁栄しています。篠永先生の「日本のイエバエ科」によってこの仲間の概要が分かり始めています。
この掲示板に関わっておられる双翅目に興味をもたれている方々や双翅目談話会の皆さんにひとつアピールがあります。それはこれから8月より秋にかけて容易に採集できるクキイエバエ属について,それぞれの場所でどのような種がどのくらい生息しているか,調べてみたらどうだろうか,と言うことです。その理由は, 1.市街地やグランドなどの空き地の草原,平地の耕作地の周囲や,河川の土手から山地の草原まで,イネ科の植物が繁茂している場所ではどこでもごく普通に生息していて,採集が容易である→身近の場所から調べられ,多数の個体が採集可能である。 2.クキイエバエ属は基本的には熱帯性のハエで,日本列島は分布の北限にほぼ相当する→地球高温化(地球温暖化)に伴う(熱帯性)昆虫類の北上がチョウやセミなどで課題になっているが,双翅目では必ずしも問題視されていない。本属は熱帯性という点から調査対象として適している。 3.添付ファイルのように,日本列島にはかなりの種が生息しており,恐らく種によって温度適応が異なり,現在でも分布北限は種間でかなりの差が見られる→種による地球高温化への適応の違いを将来明らかにできる。 4.添付の検索表を用いれば,ニコンの実体顕微鏡ファーブルレベルでも十分に種の同定が可能である→多くの方々が調査に参加できる(実体顕微鏡を持たない方はファーブルに5万円の「設備投資」をこの際行なうと,この課題に限らず自然を詳しく見る目が大きく開ける)。 5.添付の検索表は主に色彩・斑紋を中心にしており,一部に♂腹端の上雄板突起の形状を示してあるので,これらの特徴は材料を解剖しないでも観察可能。 現在の段階で分布データをとっておくと,将来更に高温化が進んだ段階で昆虫の北進などを検証するための資料になるのではないかと思います。 Atherigonaはずんぐりした多くは黄褐色のハエで,頭部を側面からみるとほぼ矩形,特に前背端が角張って,その部分から触角が下方に伸び,ほぼ直線状の頭部前縁に沿うように位置しています。最も普通のAtherigona reversuraの♂を示しておきます。 検索表や上雄板突起の図は別に掲載します。 なお,私が「昆虫と自然」誌42巻12号:pp.32-35(2007)に示した吸虫管を用いて,冷却スプレーを長めに噴射すると,たいていの双翅類はその段階で凍死します。この方法でAtherigonaも採集できます。
日本産のAtherigonaクキイエバエ属の私が持っている標本に基づく検索表を添付します。
なお,この検索表は文献としては未発表ですので,出版物などに転載することは決してやらないでください。個人的にプリントアウトして使ってください。 添付:5799.txt (9KB)
日本産クキイエバエ属Atherigona亜属数種の上雄板突起の図を示しておきます。色彩は無視してください。撮影条件でかなり異なっています。これらの突起は通常外部に露出しており,腹部の端を後背方からみると全形がわかります。
上左:A. reversura ギョウギシバクキイエバエ 上右:A. oryzae イネクキイエバエ 中左:A. sp. 1 (?exigua) 中右:A. boninensis サトウキビクキイエバエ 下左:A. falcata キイロクキイエバエ(仮称) 下右:A. biseta モロコシクキイエバエ
三枝豊平様
詳細のご解説は 大変貴重でありがたいものです。 実は、昨年同様な話題がありましたので、気にしていましたが春はほとんど採れず、7月になってから、ポツポツ採れ始めました。 近所(関東南部の平野)で先週・今週の休日に採った個体の内、オスだけを同定したところ、ギョウギシバ14頭とA. sp. 1 (?exigua)2頭でした。 結果としては、ギョウギシバが優先していました。 7月12日に埼玉の丘陵地で採ったのはオス2個体でしたが、A. biseta モロコシクキイエバエ1頭と、A. sp. 3と思われる種1頭でした。 三枝様の検索のsp.3の三葉状突起の記述についての 自分の解釈に不安な部分がありますので、図を添付してみます。 上雄板突起の形態はイネクキイエバエに似ていました。 図からわかる範囲でご教示いただけましたら幸いです。
バグリッチさん。早速ご連絡有難うございました。種によっても発生期に違いがあるのかもしれません。
あなたが埼玉の丘陵地で採集された1頭は,あなたの同定の通りAtherigona sp.3です。私の材料を解剖したものの上雄板突起,三葉状突起,腹部背板の斑紋についてのたいへんラフですが略図がありますので添付しました。他の種もこのような略図がありますので,必要に応じておりおり掲載したいと思います。 本属の種は近い場所でも種構成が異なることがあるようでして,これも幼虫の食性などを考えると,生息場所の植生についても考慮する必要がありそうです。幼虫の食性なども分かるといいのですが。 確かにギョウギシバクキイエバエはかなり普通ですが,これをほとんど欠く場所もあります。 |
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