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一寸のハエにも五分の大和魂・改
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ヤリバエ科質問
投稿者:
茨城_市毛
投稿日:2009/02/22(Sun) 22:45:49
No.5106
引用
茨城県北部の山間部の川岸で採集した,翅長3mm程のヤリバエです(標高500m程).
後眼縁剛毛列や鬚剛毛は黒色です.交尾器を見ても該当しそうな種類がありません.
よろしくお願い致します.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
茨城_市毛
投稿日:2009/02/22(Sun) 22:46:55
No.5107
引用
同,交尾器です.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
茨城_市毛
投稿日:2009/02/22(Sun) 22:47:46
No.5108
引用
後面(腹面)です.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/23(Mon) 01:36:57
No.5109
引用
本種は北海道から本州中部にかけて分布する未記載種で,impicta(=japonica)やbifurcataなどと共に数種で1群を形成しています.L. impictaやbifurcataなどとは頭部の剛毛の色彩や翅脈上の刺毛の状態などで区別できます.しかし,本種(sp.1)にはかなり類似した別種(sp.2)があり,これら2種は次の表で区別できます.
♂の第6腹節背板後縁には2対の剛毛がある;第5腹節背板の側縁近くの剛毛は背板の後縁にきわめて接近する;R2+3脈の上面は刺毛を欠く;頭部の剛毛はすべて黒色;上雄板後部は尾角葉より短い;季節形なし(常に暗色)・・・・・・・sp. 1
♂の第6腹節背板後縁には亜側部に1対の剛毛があるが亜背部には剛毛を欠く;第5腹節背板の側縁近くの剛毛は背板の後縁から広く離れている;R2+3脈の上面に刺毛を生じる;頭部の剛毛のなかで頸より下の頭部下面の刺毛は黄色;上雄板後部は尾角葉より長い;季節型あり(夏型は淡色)・・・・・・・・sp.2
両種はしばしば混棲します.
sp.1の♂の腹部や交尾器の概要図を示しておきます.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/23(Mon) 01:38:29
No.5110
引用
♂交尾器の側面です.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/23(Mon) 01:40:08
No.5111
引用
Lonchoptera sp. 1の♂交尾器後面(背面)です.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
茨城_市毛
投稿日:2009/02/23(Mon) 08:36:27
No.5112
引用
三枝豊平様.
早速の回答ありがとうございます.
今回,新訂図鑑や本掲示板で解説されていなかった種類を見つけ,これは!と思いましたが,速攻で解説されてしまいました.さすが三枝様ですね.
これで,Lonchoptera属11種と,Spilolonchoptera属1種が日本に分布している事がわかりましたが,他に何種ぐらい三枝様の手元にあるのでしょうか?
なお,茨城県からはハコネヤリバエ,キイロヤリバエ,ウスグロヤリバエ,ウスグロヤリバエ近似種,クモスケヤリバエの5種が確認され,今回の未記載種を合わせ6種が分布していることが判明しました.ありがとうございました.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/23(Mon) 09:52:18
No.5114
引用
私の手元の日本産のヤリバエ科の標本は23種+アルファです.
10数種の標本が集まった30年ほど前に,これらの交尾器や脚などの詳細な図を作成したのですが(今回掲示したのはsp.1,自分ではnigrellaと仮称している種の図もその一部で,phallic organ+hypandriumの詳細図は数が多くなるので載せませんでした),その後種数が急速に増えたうえに,中国,ネパール,ブータン,インドシナ半島,台湾などの標本が急激に増加して,作業を停滞させる原因になっています.
従来の著者たちの交尾器の図は概念図程度のものがほとんどで,実際にはきわめて複雑な構造がphallusおよびその周りに存在します.これらを正確に描画するのはずいぶんと時間がかかる作業です.このような作業は将来の研究者に任せて,名前だけでも付ける仕事をすべきかとも思っています.
私はこれまで中国だけでも延べ6ヶ月ほど採集をしましたが,そこで得られた膨大な標本が,日本というように地域を限らない全世界にまたがる総説的な仕事をする上で,重くのしかかってきて,個人的には大きなブレーキになっています.これら中国の標本は現在でもほとんど三角紙包みで,三角紙1枚に多いものでは100頭以上の双翅類が包まれていて,このような三角紙がびっしりと詰まったインローの箱が50箱ほど私の仕事場のロッカーの中でほとんど惰眠をむさぼっているというのが実情です.
これらをマウントする人件費も資材費もまた収蔵する場所もありません.あるのはマウントされていない標本だけで,ほかはないない尽くしです.
中国農業大学の楊定先生がアシナガバエ科の大型種だけはこれらの標本に基づいて多数の論文を発表してくれています.
ついでですが,日本の双翅目分類研究の将来がまことに心細い限りです.大学の研究室,博物館などの研究機関での職業的双翅目分類学者は激減し,五指に満たない状況です.将来も増える可能性はほとんどありません.しかし,多くの群で多数の未記載種が日本列島には分布しているし,また普通種についても簡単に検索できる出版はほとんどありません(最近必要に迫られて調べた平地の草原に多産するイエバエ科のAtherigonaクキイエバエ属でも,手元の一部の標本をぬき出しただけで14種ー日本のイエバエ科では6種なのでこの数以上の未知種がいるというのが,現実です).一方中国では多くの研究者を楊定先生などが養成し,またタイについては米国の研究費で多数のマレーゼトラップがセットされ,その標本が世界各地の研究者に送られています(TIGERプロジェクト)し,台湾にもハンガリーの研究者が幾度も採集にきて論文を発表しています.これらの研究は記載分類の論文が容易に出版できるZOOTAXAに次々と発表されています.
このようにして,結果的には日本の双翅類分類研究は相対的に見ると著しく地盤沈下を起こしていることになります.
職業的研究者が少数で増加する可能性もあまり期待できない状況では,研究を進める上で選択肢は二つ,一つは日本の材料を外国の研究者に提供して研究してもらうという自然史研究後進国に甘んじること,もうひとつは双翅目談話会などに結集している非職業的双翅類研究者の分類学的研究への積極的な進出.奮起であると思います.
昨今,厳しい社会状況が続いていますが,鱗翅目,鞘翅目,直翅目などでは非職業的研究者が新分類群の記載を含む多くの貢献をしているのをみると,双翅目でもできないことではないと思います.そのためには研鑽とレベルアップが求められるでしょうが,そのような道筋を真剣に探る時期にきているのかな,と思っています.長くなりましたが,所感です.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/23(Mon) 11:10:52
No.5115
引用
今回の種の♂交尾器の腹半部の構造を参考に示しておきます.これは下半部の側面と背面です.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/23(Mon) 11:13:22
No.5116
引用
これは腹半部腹面図とphallic organの側面およびその基部の腹面です.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/23(Mon) 11:15:16
No.5117
引用
腹部の腹面です.
市毛さん.標本に余裕があったら解剖してこれらの図と比較してみてください.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
茨城_市毛
投稿日:2009/02/23(Mon) 21:36:13
No.5119
引用
三枝豊平様.
数々の図を示して頂きありがとうございます.
ハコネヤリバエや本種の場合,側面から見てもhypandrium周辺が複雑な構造をしていそうだと思っていました.
ヤリバエ科は種類数が少なそうだと思いましたが,やはりかなり手持ちの札があるのですね(^_^;)
日本の双翅目の将来については,三枝様同様危機感を持っています.今後の経済状況などが絡んでくるので,なかなか難しい問題ですね.
今後ともよろしくお願い致します.
Re: ヤリバエ科質問
投稿者:
三枝豊平
投稿日:2009/02/24(Tue) 01:02:57
No.5120
引用
茨城県の山地では,今回の種との識別点をしめしたL.sp.2およL. platytarsisクンバイヤリバエが小さな流れの周辺で発見できるかと思います.
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