先日,Zoological Recordの2007年版で,長野県からフンバエの新属新種Orchidophaga gastrodiacolaが記載されているのを知り,論文を取寄せてみました.
写真を見ると,翅の先端が暗化した体長約5mm程のPsilidaeのようなフンバエです.(ほんとにフンバエ?) 記載に使用した標本は全てオニノヤガラから羽化した標本とのこと. 記載者が昆虫を専門とする人ではないので,本文に体長の表記が無かったり,交尾器も平圧したプレパラートの写真だったりとかなり変わった論文でした. Kato, M., K. Tsuji & A. Kawakita (2006) Pollinator and stem- and corm-boring insects associated with mycoheterotrophic orchid Gastrodia elata. Annals of the Entomological Society of America 99 (5): 851-858.
非常に古い書き込みへの返信で恐縮ですが、今年になってこの Orchidophaga gastrodiacola は、セマダラハネオレバエ Chyliza vittata Meigen, 1826 のシノニムとされたようですね。
記載時には、DNAの塩基配列なども考慮してフンバエ科の Delininae に近縁と推定されたようですが、市毛様の見立て通り、有弁翅類ですらない Psilidae だったようで、いろんな意味で驚きです。 ご存知の方も多いかと思いますが、個人的な備忘録もかねて書き込ませていただきました。 参考:Sueyoshi, M. 2013. Orchidophaga gastrodiacola Kato, 2006, is Chyliza vittata Meigen, 1826 (Diptera: Psilidae): discussion on its taxonomy and biology. Zootaxa 3620 (3): 473-480
Campsicn様.
やはり,そうでしたか. Kato et al.(2006)では,オニノヤガラGastrodia elataからOrchidophagaとナガモモブトハナアブAzpeytia shirakiiを記録していましたが,偶然私もオニノヤガラの周辺からChylizaとナガモモブトハナアブをたくさん採ったことがありました. 元々,フンバエ科の小型種とハネオレバエ科等との区別に悩んでいたので,もしやと思ってました. この論文には気づきませんでした.書き込みありがとうございました.
この件については、DNAデータの不注意な乱用の例として、英国の双翅学者Peter ChandlerがSciaroideaのメーリングリストの中で批判しています。以下それを添付しておきます。
添付:8524.doc (30KB)
Kato論文については、著者らの勇み足はもとより、米国昆虫学会の会誌なので、レフェリーはいったい何をボヤーとしていたのか、その真価が問われます。
誰が見ても、この論文に出ている写真からはフンバエとは思えず、Acalyptrataeをある程度知っている人ならハネオレバエ科であることは一目瞭然です。
Kato論文でフンバエ科と誤同定された種が、実際はハネオレバエ科のChyliza属であることは、同論文に含まれるこのハエの翅の写真(添付)を見ると明確です。前縁脈にきわめてはっきりとした、しかも長めの切目(costal break)が見えます。そしてこの部分に達するはずのSc脈の弱い主要部が原文の付図ではきわめて不明瞭に前縁脈とR1脈(前縁脈に達する顕著な黒い脈)の間にかろうじて認められます(ここに引用した図では消えている)。また、いわゆる臀室、真のCuA室の末端が直角ないしやや鋭角になっています。そのほかにも、ハネオレバエ科の特徴がでていますが、上記の前縁脈の切目と弱いSc脈、直角ないし鋭角のCuA室の末端はフンバエ科には見られないものです。
三枝様,詳しい解説ありがとうございます.
また,Chandler氏のメーリングリストもありがとうございます.同様な問題が複数出ており,色々と問題視されているとは知りませんでした. 丁度末吉さんからまとめて別刷りが送られてきまして,Zootaxaの論文も入っていました. 毎年,この時期になると色々な大学の生態学の学生から,ハナアブや双翅目全般の同定の依頼メールが届きはじめます. 大概のテーマは,特定の植物にどのような昆虫が集まるかという研究のようです. 中には,何百という標本を同定して雌雄の比率まで知りたいとのメールもあります. 毎回,双翅目の同定の困難さを伝え,参考文献をもとに自力で科レベルでまとめなさいとの返事をしております. pollinatorとしての双翅目の比率が無視できないようですが,同定が出来ないので色々と無茶な論文が出るのかもしれません. 三枝様の言う通り,Katoの論文が米国昆虫学会の査読を通ったのも驚きです. |
- Joyful Note -
- Antispam Version -