追加の画像です。 FS
追加の画像です。 FS
写真のアブはシギアブ科のRhagio属の1種です.このように翅の半分が暗色で腹部が黄褐色ないし橙黄色で黒紋のあるRhagioは,少なくとも日本からはフタモンキイロシギアブR. itoi Nagatomi,キイロシギアブR. flavomedius Coquillett,ヨツモンキイロシギアブR naganensis Nagatomiの3種がわかっています.これらのシギアブの論文を見ても,腹部の斑紋の状態が写真に適合するものがありません.
私もシギアブを専門に研究している者ではないので,これ以上詳しいことはわかりません.シギアブを研究していた故永冨昭先生の標本は大阪市立自然史博物館に保管されています.これらを調べれば写真のシギアブの名前がわかるかもしれません.
永冨先生が日本産のRhagio属を総括した論文をお書きにならなかったし,まだ日本から記録されていない種もあるので,この仲間の同定をするのには,上記博物館の標本を調査するしかないのが現状です.同定の必要性が高い場合は同博物館にお尋ねになるのも一法でしょう.
アノニモミイア様
たいへん丁寧に解説をしていただき心より感謝申し上げます。
今日もたくさんの同じ種のシギアブを見ました。
これからも関心を持ち続けていきたいと思っております。
ありがとうございました。
FS
6月3日におたずねしたシギアブについて追加の質問をさせていただきます。
同種の個体の採集を試み続けていたところ、6月7日に同じ場所で別のシギアブ(体長8ミリ)を採集しました。画像のシギアブがそれにあたります。腹部の斑紋の状態は6月3日のものと明らかに違うように思います。以下の三つの点についてご教示いただけましたら幸いです。
1.7日の個体は北隆館の原色昆虫大図鑑の記載を見るかぎりではフタモンキイロシギアブの可能性があるのかとも思いましたが、いかがでしょうか。
2.3日の個体と7日の個体は別種と判断してよろしいでしょうか。
3.3日の個体は日本未記録種の可能性があると考えてよろしいでしょうか。
ある事情があって、できれば可能な限り同定したいと願っています。どうぞよろしくお願いいたします。
FS
7日の個体の画像です。FS
コメントの中で言及した図鑑の文章です。
「〜〜とも」のあとは「に本州に産する」と続きます。
FS
FS様.
シギアブ科については,専門家であった鹿児島大学の永富昭先生が多数の論文を書いていますが,初期に書かれたRhagio属についてはアノニモミイア氏が書かれているように検索表も無く,同定にかなり戸惑うグループです.
生前永富先生と交流があった人の話では,Rhagio属についてはもう一度検討し直して,総説を書きたいと話していたそうです.
FS様の種名を知りたいという気持ちは解りますが,検索表のような目安になる情報がない種類を同定するためには,個体変異などを考慮しながら多数の標本を調べて自分なりの検索表を作るというかなりの努力が必要となります.
>1.7日の個体は北隆館の原色昆虫大図鑑の記載を見るかぎりではフタモンキイロシギアブの可能性があるのかとも思いましたが、いかがでしょうか。
北隆館の記載には,「腹部第1・2節は黄色,中央に黒紋をもち」と記されていますが,7日の個体にこの特徴が写っていませんので,私もアノニモミイア氏同様に別種の可能性が高いと思います.また,R. itoiは胸背や胸側部に灰粉を装い,写真のシギアブとはかなり色彩が異なります.
正確に調べるためには,Rhagio属の分類にどのような特徴が重要なのかという,基本的なことから調べ,腹部斑紋などの個体変異の幅を把握しなければ同定は出来ません.
>2.3日の個体と7日の個体は別種と判断してよろしいでしょうか。
フタモンキイロシギアブR. itoi NagatomiとヨツモンキイロシギアブR naganensis Nagatomiの原記載論文である”Nagatomi, A., 1952, New Rhagio-species from Japan (1), Mushi, 24(3):7-12.”を読んでもらえばわかるように,両種とも雌雄で腹部斑紋が異なります.また,両種とも長野県上高地で同日に採集した標本で記載されています.僅かに生息環境が異なるのか,2種が混生するのかは不明です.
>3.3日の個体は日本未記録種の可能性があると考えてよろしいでしょうか。
7723でアノニモミイア氏が書かれているように,未記載種である可能性もありますし,既知種の個体変異という可能性もあります.
茨城@市毛様
たいへん詳しくご教示いただき心より感謝申し上げます。
個体変異の幅の把握というのは、非常に困難な作業なのだと推測いたします。
標本の数を増やそうと今日も同じ場所を散策しましたが、採集にはいたりませんでした。地道に努力を続けていきたいと思います。ありがとうございました。
FS
先日,永富先生の弟子的な立場の知人から電話があり,シギアブについて色々と話を伺いました.
そこで伺った内容としては,
・永富コレクションのキイロシギアブには同定ラベルが付いないと記憶している.
・シギアブは色彩などの個体変異が大きいので,最終的には体の各部を計測して種の範囲を決定する方向に向かっていた.
とのことでした.
したがって,日本各地に普通に分布していると思われるキイロシギアブR. flavomediusについては,1種なのか複数種に分かれるのかが未定のまま永富先生が亡くなってしまったので,今後このグループを研究する人が出てこない限りは写真のようなシギアブについてはキイロシギアブと思われるとのコメント以上の回答は出来ないとの結論になります.
キイロシギアブのタイプ標本はおそらくワシントンスミソニアン博物館群の一つ,米国国立自然史博物館に所蔵されているはずです.日本から米国にはるか昔に寄贈された標本です.
茨城@市毛様
コメントをありがとうございました。
縁あって関心を持ったキイロシギアブについて研究史を知ることができ、たいへんうれしく思っております。
先人のご努力に敬意を表しつつ関心を持ち続けてまいりたいと思います。
FS
アノニモミイア様
貴重な情報をありがとうございました。
遠くアメリカの地にあるタイプ標本を想像し、はるかな思いにひたりました。
今後ともご指導よろしくお願い申し上げます。
FS
FS様 シギアブの行動については,よくわかっていないことが多く,1種でもいいですから多産地で時間をかけて行動をじっくりと観察することによって,いろいろとわかってくるのでは,と思っています.RhagioやChrysopilusなどについては,樹幹や杭など,葉上に静止していて,人が近づくと飛んでまた近くに止まる,という程度の現場での経験しかありません.配偶行動,摂食など見たことがありません.このような面にもぜひ目を向けてみてください.
アノニモミイア様
ご教示に心より感謝申し上げます。
これから何年もの時間をかけて観察を続けていきたいと思います。
6月3日にあれだけたくさん見られたRhagio属がここ数日は全く姿が見られません。発生時期にも特徴がありそうな気がします。
今後ともご指導よろしくお願い致します。
FS