この異型のアタマアブはNephrocerinae亜科のNephrocerus属の一種です。あなたが観察されたように、樹木の枝の下の空間でゆっくりとホバリングをしているのが観察されます。日本からMorakoteさんによって4種が記載されています。
Chalarinae亜科とは異なって、Pipunculinae亜科と同様に、単眼剛毛を欠き、後頭部が側面から観察されます。一方、複眼の後縁が中ほどで強くえぐられ、触角の第1鞭節は腎形で、下端はとがらず、中胸楯板の側部や小楯板に強い剛毛を生じている、などの点でPipunculinae亜科とは区別できます。腹部基部がしばしば淡色になります。
Morakoteさんの論文は以下の通りです:
Morakote, Rut, 1988. Four new species of Nephrocerus Zetterstedt (Diptera:Pipunculidae) from Japan. Esakia, (26):79-90.
もし、pdfが入手できなかったらご連絡ください。
あなたの写真から判断すると、触角第1鞭節も小楯板も鮮黄色ですので、N. spineus Morakoteの可能性がありますが、これは北海道標茶産の1雄で記載されたものです。ほかの小楯板が黄色の種はN. japonicus Morakoteがあります。これは第1鞭節が暗橙色となっています。N. japonicusは愛知県からの標本で記載されています。
4種ともにほとんど1頭の標本で記載されており、まだほかに種がある可能性が高いと思います。私も4既知種以外の種の標本を持っていますし、日本産の種については、私はMorakoteさんの論文しか知りませんので、ほかにも記録された種があるかもしれません。
三枝先生、ご教示ありがとうございます。
ご紹介の論文を早速DLして比べてみました。
属の特徴は全くそのとおりでした。
種の検索は、後脚転節下面にトゲを持たず、脛節端に強い剛毛の輪を持たないので、Nephrocerus japonicusに行き着くのですが、どうも記載内容とはしっくり来ない点があります。
触角第3節は鮮やかなオレンジ色で大きく、第2節の倍の長さと幅を持っています。Aristaの形状と色彩はjaponicusと同じです。
小楯板の後縁には3対の強剛毛を持ちますが、別の標本では2対です。
腹部第2節は第3節より若干長いですが、別の標本ではほぼ同じ長さです。
Genitaliaは、japonicusの特徴とほぼ一致します。
体色などの色彩には変異があると思われますし、Genitaliaが一致するならjaponicusと同定したいところですが、触角の形状が一致しないのは、近似の別種の可能性があると見るべきでしょうか。悩みます。
顔面の画像を添付します。
N. japonicusは♂1頭で記載されたもので、当然ある程度の個体変異があると思われます。触角の色彩にしても、標本の状態である程度の暗化はおこると思われます。
♂交尾器の構造に顕著な相違がない限り、あなたの同定の通りN. japonicusでいいのではと思います。Morakoteさんの図をみても、本属の♂交尾器にはかなり顕著な種間差が見られますので、今回の標本がjaponiusと別種であれば、交尾器にかなりの違いが生じていいはずだと思います。
三枝先生、コメントをありがとうございます。
記載に用いられた標本数は少なく、変異の幅がわかりませんから、Holotypeとの違う点が出る可能性はあると考えます。触角の色彩と形状以外は問題がないので、N. japonicusと同定しておくことにいたします。
東京都内初記録になります。
ありがとうございました。