ヒヨドリバナの蕾に産卵する虫を撮影しました。
タマバエ科だろうと見当を付けて、九大のデータベースで検索してみると、ヒヨドリバナウロコタマバエ(Lasioptera euphobiae Shinji, 1944) という和名を持つ種がみつかりました。 写真の虫がヒヨドリバナウロコタマバエである可能性はあるでしょうか?
翅脈の見える写真です。
体長は1.5mm程度でした。 兵庫県三田市、2009年9月5日の撮影です。 また、動画も撮りました。 http://video.nifty.com/cs/catalog/video_metadata/catalog_090905236717_1.htm 手ぶれと風とで見にくい動画ですが、最初、産卵管を空中に伸ばしたとき、先端から更に細い管?が出てきますが、あれは何でしょうか?あれが真の産卵管ですか? よろしくお願いします。
「最初、産卵管を空中に伸ばしたとき、先端から更に細い管?が出てきますが、あれは何でしょうか?あれが真の産卵管ですか?」
動画も拝見しました。最初に伸びている膜状の部分は第8腹節と産卵器(真の産卵管ではない;続く投稿を参照ください)を含むそれより後方の部分との間の節間膜に相等する部分で,ここが長く筒状に伸びていて,この中に植物組織に挿入して実際に産卵に機能する骨化の強い針状構造(あなたが「細い管」と言っている部分)があるものと思います。
なお,「産卵管」という形態学用語がしばしば拡大解釈されて用いられているので注意する必要があります。
真の産卵管は直翅目,同翅亜目,ラクダムシ目,膜翅目などに見られる針状(コオロギ,ヒメバチなど)ないしブレイド状(ツユムシ,ハバチなど)の構造で,これは第8,9腹節の恐らく付属肢起源(これには議論があります)の2対ないし3対の突起状構造が組み合わされたものです。 しかし,双翅目を含む多くの昆虫目(蜻蛉目,カゲロウ目,積翅目,鞘翅目,長翅目,毛翅目,鱗翅目,双翅目など)では産卵管はほぼ完全に失われています。 これらの目では,失われた産卵管に代わって,第8腹節以後の腹節本体(双翅目ではしばしば第6,7腹節も)や尾角が多様に変形し,しばしば節間膜の伸長を伴う細長い構造の産卵器になって,これを産卵基質に挿入したり(クシヒゲガガンボ類,タマバエ類,ハルカ,ハモグリバエ類など),押し付けたり(キノコバエ類,カ類,クロバエ類など)して産卵がおこなわれます。 これらの目でもほとんどの場合に,生殖孔(産卵孔)は第8,9腹節境界部の腹域に開口しますが,鱗翅目二門類(チョウや多くの高等な蛾)などのように本来の生殖孔は交尾孔としての機能に限定され,実際の産卵孔は第9腹節と尾角が一体になった左右1対にみえる肛門葉の間の膜状部末端の肛門直下に開口するものもあります。 なお,下記のローマ字の術語を本文中で()内に入れて投稿したら,投稿拒否されましたので,下に示しました。 産卵管 ovipositor 尾角 cercus 肛門葉 papillae anales
三枝先生、
産卵管について、詳細な解説をありがとうございます。 他の目のことはあまり考えたことはありませんでしたが、ハチの産卵管とハエのものとでは別物であろうとは、さすがに思っていました。ただ、北隆館の大図鑑の旧版(新版はまだ買えずにいます)では産卵管という用語が使用されていたので、そういうもの(由来には関係なく、産卵のための器官の総称)かと思っていました。。今後は気をつけたいと思います。 ところで、双翅目の場合は産卵器という言葉が使えるということでしょうか?そうであるなら、産卵器という言葉は産卵管を欠く昆虫の産卵のための器官の総称という解釈でいいのですか?
産卵管ovipositorと言う術語が直翅目や膜翅目に見られる真の産卵管に限らず産卵行動のために腹部の後端部が細長く伸縮状になった構造にしばしば用いられています。
古典になりますがSnodgrassのPrinciples of Insect Morphologyでは,真のovipositorを解説すると共に,これを失っている昆虫群で上記したような産卵器官を,substitutional "ovipositor"として引用符付きで紹介しています。鱗翅目,双翅目,長翅目などのメス腹端部を図説するなかでも,"ovipositor"として引用符をつけています。 最近の昆虫の形態,機能,辞書関係の図書でもovipositorの術語の元に真の産卵管が解説されています。 日本語では,真の産卵管でもこれを失った二次的な産卵器にたいしても,Snodgrassのように産卵管に引用符をつけないでただ単に産卵管という術語を当てているのが実態です。Snodgrassはこのような多様な産卵に関係する器官について,真の産卵管も含めて,organs of ovipositionという表現を用いています。これを訳すと,産卵器または産卵器官とすることが出来ると思って,私は産卵器と書いたわけです。 また,双翅目ではメスの腹部後半部,特に第8腹節以後の部分に対して,female terminaliaという術語を用いるのが一般的です。雌腹端部と訳せるでしょう。これは双翅目で腹端部が必ずしも細長い産卵管状の構造になっていない場合もありますので,より汎用性の高い術語となります。 Manual of Nearctic Dipteraでは,雌の産卵器官を含む腹部後端部についてterminaliaを用いていますが,断り書きとして,「双翅目では,尾角も含むterminaliaのすべての要素がovipositor (oviposition tube, oviscapt, ovicauda)としばしば呼ばれるが,しかしこのような双翅目のovipositorは直翅目形の真のovipositorとは相同ではない」と記述しています。 双翅目では,ガガンボダマシ科のように細長く伸びた一見真のovipositor風の尾角,タマバエ科,クロツヤバエ科やミバエ科などに見られる骨化したあるいは膜状に伸長した管状のterminaliaは,確かに産卵[管]と呼びたくなる形状です。
三枝先生
またしても詳細な解説をありがとうございます。 おかげで産卵器について凡そ理解できました。 今後もよろしくお願いします。 |
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