埼玉県昆虫誌のカノコヤドリバエの学名が九大目録と違うので
ネットを探ってみたら、ライプニッツ農業景観研究センターの ページに「ヤドリバエ科のシノニムリスト」 http://www.zalf.de/home_zalf/institute/dei/php/index.php?page=Tachinidae がありました。左側のTaxonがジュニアシノニム、im DEI(ドイツ昆虫学研究所)がシニアシノニムとなります。 カノコヤドリバエ Isocarceliopsis hemimacquartioides Baranov 1934 ↓ Carcelia ceylanica (Brauer & Bergenstamm 1891) となるようです。
セスジ様.
セスジ様が紹介している頁は,ライプニッツ農業景観研究センターの収蔵標本リストであって,シノニムリストとは位置付けが若干異なると私は思います.(ハナアブ科を見ると,1980年代頃の学名となっているようで,その後30年分のシノニム処置が反映されていないようです) さて,問題のカノコヤドリバエの学名ですが,埼玉県昆虫誌の出典である埼玉県動物誌(1978)では,カノコヤドリバエに Carcelia(Euryclea) ceylanicaの学名が当てられております. 当時は,既にShima(1969)で日本産Carcelia属について解説していますが,Carcelia(Carcelia) hemimacquartioides を収録する一方,C. ceylanicaの学名は見当たりません.(C. hemimacquartioidesのHostにAmata fortuneiカノコガと記されています) Mesnil(1968)の,A Preliminary List of Tachinidae from Japanでも,C. ceylanicaの学名は出てきません. そして,日本産昆虫総目録(1989)では,カノコヤドリバエはCarcelia(Euryclea) hemimacquartioidesとなっており,そ の後の皇居のヤドリバエ科(2000)等でも,同様の扱いとなっております. 一方,中国ハエ類(1999)のCarcelia(Euryclea) ceylanicaの項目にはシノニムは記されていません. なお,Herting(1984)Catalogue of Palearctic TachinidaeのAnnotationsには, (43) C. (E.)-hemimacquartioides Baranov is not a synonym of ceylanica Brauer & Bergenstamm (Eufischeria). The types of the two species (seen by me) differ markedly in the width of the frons and the shape of the third antennal joint. との記述があるので,何かの論文でシノニムとされたものが復活したのではないかと思います. そのようなわけで,次の日本産昆虫総目録が出るまでは,カノコヤドリバエの学名はCarcelia(Euryclea) hemimacquartioidesで良いのではないかと思います.
Shima (2006) A host-paratsite catalog of Tachinide (Diptera) of Japan, Makunagi/Acta Dipterologica, Supplement 2 によれば,カノコヤドリバエの学名は:
Carcelia (Euryclea) hemimacquartoides Baranov です.おそらくこれが本種の学名としては最新情報でしょう. 寄主はカノコガ(北海道帯広)だけで,種の分布は北海道,本州,九州;中国(北京,上海,台湾)と示されています(本文は英文). なお,本件とは無関係ですが,学名に人名を用いるときに,それに hemi, neo, para, nigri-, -oides などの接頭語や接尾語をつけるのは,一般に好ましいこととは言われていません.本種の場合には,Baranovは,接頭語に加えて接尾語までMacquartに付けたことになります.この場合,たとえ人名ではなくとも,余り感じのよい学名ではないでしょう.「何々に似たものの半分」と言うようなことで,さっぱり意味が通じません.
市毛様・アノニモミイア様
ご教授ありがとうございました。収蔵標本リストですね。 早とちりで申し訳ございません。 |
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