バグリッチさん.写真のメスは間違いなくClinoceraであると思います.R4とR5がほぼ平行して翅縁に達する;複眼と口縁がほぼ接することでgenaが前後に分断される;などが写真から見えます.近縁属にKowarziaがいますが,多分これではないでしょう.Kowarziaは雄交尾器が異なるし,顔面に刺毛を生じています(小形のClinoceraでも生じる).
Clinocera属は新訂原色昆虫図鑑第3巻に翅斑の顕著な1種が解説されていますが,このほかに10種ほど日本列島に生息しています.流れの速い渓流には主にTrichoclinoceraやWiedemannia,Hypenellaが生息し,本属は概して流速の遅い細流や岩清水などを主な生息環境にしています.一つの岩清水に2-3種生息していることもあります.岩清水の表面近くを手でなするようにすると飛び立って近くに静止するし,また強く息を吹きつけると翅が振れるので,見つけることができます.吸虫管で吸う時に水滴を管内に吸い込むと,この水滴に翅が簡単に濡れて,虫体が濡れ鼠になるので,注意が必要です.氷が張っているような岩清水にも厳冬期に活動しています.
TrichoclinoceraはR1脈上に刺毛列があるし,RhyacodromiaはR4とR5がEmpisのように相互に強く離れていくのでClinoceraから区別できます.WiedemanniaやHypenellaは共にgenaが幅広いし,Hypenellaはさらに付節も短いので区別できます.Roederiodesは細長い口吻を持っているので,Clinoceraから簡単に区別できます.Dolichocephalaは頸の位置が頭部のほとんど上端に近く,しばしば翅に水玉模様をもち,またR4とR1を結ぶ二次的横脈があります.
アノニモミイア様
詳細のご教示に御礼申し上げます。
早速 新訂原色昆虫図鑑のClinocera属を確認いたしました。前後の属に挟まれていたので気づきませんでした。
ナミシブキバエ属と和名があるのですね。
まずは、Clinocera sp.として記録させていただきます。
水で翅がだめになってしまう点は興味深く、水際の生活者としては 意外な印象があります。思い出してみますと、ミギワバエ科も同じで、水で翅がダメになります。ただ小型である事の他に、水際の生態上、そうなるべき何らかの理由があるのかも知れない、と勝手な想像もしてみたくなります。
近似属との区別点は 大変わかりやすく、ありがたいです。
このあたりの種も 意識して探してみたいと思います。
引き続き宜しくお願い申し上げます。
前掲の記事を一部(近似属との区別点)修正しましたので,ご注意ください.