ツノチビーの角がこの写真です。
第4腹板の片側が突出して角を形成しています。
背面の写真もよく見ると、第3、第4背板の後縁は斜めになっており、すごく特徴があります。
ところで、Sphegina属はAsiospheginaと基亜属に区分されているようですが、どこで亜属を見分けるのでしょうか?
ご教授いただけると幸いです。
亜属の区分は、第1腹板が発達しているのが基亜属で、退化しているのがAsiospheina亜属です。
残念ながら、現在日本産Sphegina属の同定は非常に困難です。
Fauna Japonicaでは7種が収録されていますが、現在日本にはその2倍以上の種類が分布しています。北海道を丹念に調べると3倍近くに増えると思います。
また、未確認ですが未成熟個体と成熟個体とで体色が変化するとの情報もあります。
Sphegina属は、日本産ハナアブの分類の中で、現状として最も分類が困難な属です。
なぜなら、講演等で何回か取り上げたように、素木が研究した殆ど全ての標本(タイプ標本・同定標本)をアメリカのDr.Thompsonが四半世紀以上借り出しており、再三の返還請求にも応じてくれないようです。
北大も根こそぎ持って行かれているので、愛媛大にも残っていないと思います。
極東の昆虫の検索を見ても、この属の検索には交尾器や腹部末端の形状が重要なようです。
したがって、ロシアなどで記載され交尾器などが図示された種類以外の同定はsp(=japonica?)等としています。
追伸。
恐らく、写真の個体がナガハナダカチビハナアブSphegina elongataだと思います。
しかしながら、本州には第3〜4背板の後縁が斜めで、第4腹板に突起を持つ別種も見つかっているので、両種が四国に分布していると、記載文だけでは区別できなくなります。
市毛様
Spheginaの亜属の区別点を後教授いただきありがとうございます。
やはりSpheginaの同定は難しいんですね。
Cheilosiaと匹敵するぐらいの難物と見ました。
ですが、どちらも結構いっぱい採れるので何とかならないかと思っている人も多いと思います。
私としては、まずは、手持ちの標本をじっくり見て、撮影画像を提供しようと思います。それについて、お墨付きをいただけたら、web図鑑に載せていくのもありではないでしょうか。
今後ともよろしくお願いいたします。
pakenya様。
実は、素木氏の記載の場合、タイプ標本が見られないという事が重要な問題となります。
Fauna Japonica等での彼の記述は、Holotypeの特徴を記述しているケース以外に、タイプに指定していない同定標本の特徴を記述してたり、全く別の種類の特徴を記述しているとしか思えない記述だったりと、種毎にパターンが変わります(^_^;)
従って、彼の記載文に合致していても、本当に合っているのかタイプ標本を見なければ判断出来ません。
Sphegina属については、元会長が検索を作ったことがあるのですが、種類の多さとタイプ標本が無いというあまりの危うさに継続を断念してしまいました。(sp.が11番までありました)
現状としては、ハナアブ目録にあるStackelbergが記載した4種が確実なのと、極東の昆虫の検索に交尾器が図示されたjaponica, thoraciaca, elongateをsense Mutin&Barkalovとして当てはめておくのが適当かと思います。
あとは、近縁種の扱いをどうするか考えなくてはなりません。
このような理由があるので、極東の昆虫の検索をはじめとして、素木の記述を参考にした文献は、全て疑わなくてはなりません。
素木のタイプ標本を色々と調べていくと、近隣諸国の分類にかなり影響を与えます。
市毛様
Spheginaの問題点、概ね了解いたしました。
確実に同定できるものが全体の半分以下ということは、非常に残念なことですね。
現在日本語で交尾器や腹部末端の形状を図示したものは存在しませんから、ここのWeb図鑑に掲載すれば、利用価値があると思いますので、私の挑戦は継続したいと思います。
ご支援をお願いします。
今度は、ハナアブ図鑑にも載っているコハナダカチビハナアブS. (Asiosphegina) nitidifrons Stackelberg, 1956と思われる標本です。会津の猪苗代町で2005年7月の採集です。
写真の順番が逆になってしまいましたが、第4腹板の形状や剛毛の状況は図鑑の記述と合致します。geniの形状は資料がないので未確認ですが、細くて長いsurstylusが特徴的ですね。
nitidifronsであっておりますでしょうか?
pakenya様。
交尾器などの特徴を見る限り、Sphegina(Asiosphegina) nitidifronsです。
交尾器の観察で問題なるのが、乾燥標本の交尾器は変形していると考えなければならない点です。
交尾器の比較的柔らかな部分が乾燥時に収縮して変形しますが、その他に標本作成時に交尾器を引き出す時に変形させたり、固定用の針に押されて変形したりする場合も有ります。
私は変形を防ぐために、交尾器は志賀の微針を使用して固定します。(微針の紛失に注意。時々ピンセットで弾いてしまい探し回ります。)
茨城で採集したS.(A.)nitidirrons 体長約5.5mmの乾燥した腹部末端です。
同じ個体をKOH処理したものです。
surstylusの感じがかなり変わったように見えます。
また、hypandriumの内側にあるaedeagusの感じも変わります。
通常、原記載などの図はKOH処理したものですから、乾燥標本と見比べるのが困難な場合が多々あります。
このような点を調べながら原記載などと照合しなければならないので、非常に時間がかかります。
先日ブログに書いたように、本州を丹念に調べると北海道でしか記録がなかったハナアブが結構見つかります。
今後のハナアブの同定には、極東ロシア産全てと照合するぐらいの気負いが必要と感じます。