これはHeleodromia japonica Saigusaの雄です.ほかに日本から3種(いずれも本州の山地や北海道の高山地)が記載されており,未記録ですが欧州に分布する模式種のH. immaculataも大雪には棲息しています.いずれも路傍(露地)のじゅくじゅく湿った地面に棲息し,多分幼虫もそのような場所にいると思います.本種は北海道から九州まで平地から山地に普通の種です.Saigusa (1962)に日本産の論文があり,交尾器の解剖図も出ています.属としては亜寒帯ー寒帯性のもので,本種の分布は例外的に暖地に偏っていますが,夏季には平地では見られません.
先ほど書き忘れたのですが,Parathalassius属はHeleodromiaと違ってもっぱら海岸の砂浜に生息します.波が引いた後の湿った砂の上などを歩いていたり,コウボウムギやハマニンニクなど草本の茎や葉に止まったりしています.Thalassaが海の意味ですので,これから命名されたのでしょう.本属は日本に数種棲息していますが,いずれも未同定種です.利尻島にいるThalassophorusも海岸の礫のある場所で,アシナガバエ科のイソアシナガバエ類Conchopus & Acymatopusなどと同じような生活をしています.これはParathalassiusやMicrophorellaに近縁のオドリバエで,どちらかと言うとアシナガバエの系統の基部にあたるようなもののようです.
アノニモミイア様
詳細のご教示 本当にありがとうございます。
Heleodromiaに行き着かなかったのは、『双翅目昆虫の検索システムに関する研究』の検索表のkeyの『翅の2つの基室は非常に小さい←→通常の大きさ』で、間違えたようです。
ここを越えれば行き着けたのですが、まだまだ勉強不足でした。
しかし、種名(Heleodromia japonica Saigusa)までわかってしまうのですね。驚きです。
確かに、湿地で採集しました。
Parathalassius属は今後、海岸へ行く際には注意したいと思います。
これらの種とは別に、何度か通っている場所で毎年採れるオドリバエがいるので、改めまして、画像をアップしてみます。
引き続き、宜しくお願い申し上げます。
Heleodromia japonicaは下の写真の交尾器の最上部に鉤型の突起が1対見えます.これは第9腹節背板(epandrium)の突起でして,このように細く鉤型に曲がって,数本の刺毛を生じていて,交尾器が大型なのは日本産では本種だけですので,同定可能です.H. minutiformisもやや同じ構造をしていますが,交尾器がはるかに小型です.