同日採集した別個体の交尾器背面です。
(気泡が入ってしまっています;^_^)
橙黄色の中型のHilara(ミナモオドリバエ属)は日本列島に数種ありまして,H. tricolorの原記載に問題があります.これら橙黄色の種の多くは夜行性で,多発地の渓流に夜,灯りで水面を照らすと,水面で昼行性の種と同様に雄が求愛餌をさがして水上飛行機型の飛翔をしているのを観察できます.明後日から2週間ほど外に採集にでますので,帰国次第調べてお返事します.
なお,Hilara属は日本列島に300種以上棲息していまして,まずはFrey博士の記載した種の整理をしないと,次に取り掛かれない状況です.Frey博士の記載したHilaraの多くの種が複数の種を含んでいますし,同一のものを別種として記載したものもあります.また,ビルマなどの種を記録しているのも,別種の場合があります.
交尾器に気泡がはいっていますが,これは70%くらいのエタノールに入れておくと,2ー3日で消えます.水でもいいのですが,気温が高い時にはミズカビが生えることがあるので大きな気泡の時はエタノールの方がいいです.なお,短時間の内に気泡をとりたいときには,5-10ccの大きな注射器(針はつけない)に材料を容量の1/3くらいの液と共にいれて,内筒を押し込み,空気をほとんど抜いた状態にして(この操作は言葉で言うほど簡単ではありません),それから注射針を刺すところを指でしっかり止めて,内筒を引くと,内部が低圧になり,虫などの体内の空気が膨張して体外にでてきます.これを2,3回くりかえすと,気泡はごく小さくなるか,消えます.小さく残った場合でも,上記エタノールに浸けておけば数時間で消えます.試してみてください.注意点は材料を操作中などにいためないようにすることです.いらない材料で訓練する必要があります.これは私のアイデアですが,今回始めて書いたもおです(他の人も独立にやっているかもしれません).
アノニモミイア様、早速の書き込みありがとうございます。
Hilara属が日本に300種ですか!
ChvalaのHilara属の総説を見て200種位は覚悟していたのですが、予想以上でした。
気泡除去方法についてもアドバイスありがとうございます。
早速トライしてみます。
ついでに、水酸化カリウムでうまく透過出来ない交尾器を透過する方法は御存知無いでしょうか?
Stackelbergは過酸化水素が良いと書いていますが、色々濃度を変えたりしたのですが上手く行きません。
時間のあるときで結構ですので、よろしくお願い致します。
Hilara tricolorに関する問合せにようやく返事ができます.本種はFreyによって伊藤修四郎先生が北海道の定山渓,仁伏,本州の広島県三段峡および山口県宇佐で採集された標本に基づいて記載されたもので,まだholotypeやlectotypeの指定が行われていません.仁伏と本州のものはほぼ同一種で,これらの触角第3節は暗褐色ないし黒色です.定山渓のものはこれらとは異なる別種で,触角の第3節は基部の2節と同様に黄色です.前種は雄交尾器の背板葉の突起が針状ですが,後者では先端は尖りますが幅広く,またこれに生じる剛毛は大変長く数も多数です.
写真の種はおそらく前種に相当すると思います.交尾器を背面から見た場合の先端外側にペアで生じる部分の先端が2個の短い突出部になっているのは両種とも共通しています.ですから,交尾器背面の写真だけでは判断できません.しかし,全形写真で触角の色彩を見ると前種のようです.
体が黄色ないし橙黄色のHilaraはこれら2種のほかに日本列島にはまだ数種未記載種があります.
以上ですので,写真の種は一先ずHilara tricolor Frey, 1955 [F205, F187, F230]と同定されたらいいと思います.Fナンバーは伊藤先生がFrey教授にお送りした際の同時採集標本の番号です.
前便で以下の記述を修正します.また暗証キーを忘れたので原文を訂正できませんでした.
誤「仁伏と本州のものはほぼ同一種で,」
正「仁伏と本州のものはほぼ同一種か同一種群に入る異所的別種で,」
誤「写真の種はおそらく前種に相当すると思います.交尾器を背面から見た場合の先端外側にペアで生じる部分の先端が2個の短い突出部になっているのは両種とも共通しています.ですから,交尾器背面の写真だけでは判断できません.しかし,全形写真で触角の色彩を見ると前種のようです.」
正「写真の種はおそらく前種群に相当すると思います.交尾器を背面から見た場合の先端外側にペアで生じる部分の先端が2個の短い突出部になっているのは前種群2種とも共通しています.全形写真で触角の色彩も暗褐色のようで,前種群です.しかし,この種群の列島内での変異や分布の詳細は未検討です.」
なお,「ついでに、水酸化カリウムでうまく透過出来ない交尾器を透過する方法は御存知無いでしょうか?
Stackelbergは過酸化水素が良いと書いていますが、色々濃度を変えたりしたのですが上手く行きません。」
というご質問ですが,15-20%の水酸化カリウムで時間を掛けて(30分とかそれ以上)熱するか,この溶液に数日浸けておけば,クチクラの暗色の色素はかなり脱色されて,見やすくなります.更に詳細な部分を透過してみるのであれば,手間はかかりますが,脱水→キシレン透徹→バルサム封入を行えば細部が正確に観察可能です.
H. tricolorのtype localitiesの標本の雄交尾器を参考に示しておきます.
アノニモミイア様。
詳細な解説ありがとうございます。
種類数の多いHilara属の中でも、体が黄色又は橙黄色のグループは、ある程度絞込みが出来そうな種類数のようですね。
交尾器の透過方法についても、アドバイスありがとうございます。早速、アドバイスに沿って試行錯誤してみます。