おー、やっと通った!
スパムフィルタに弾かれて悪戦苦闘しております。 林道上に下痢便の獣糞が小さな水溜まりのようになっており、集ったハエが交尾していました。 下の♀は口吻を伸ばし断続的に獣糞を舐めています。 横から見ると交尾器は結合していません。
ベッコウバエ科のNeuroctena属でベッコウバエを除いて、翅の前後の横脈が暗条で囲まれるのは、N. baldia (Kurahashi, 1981)とN. analis (Fallen, 1820) (=N. melanacme (Kurahashi, 1981)があります。前種は脚や腹部が一様に橙色、中胸楯板の前横線部の側部に斑紋を欠き、触角は暗褐色、後種は前、後脛節の先端が黒色、腹部も後半部は暗色、楯板の前横線部の側部に黒点を現わし、触角は橙色となっています。これらの特徴を写真と照合すると、後種、N. analis Fallen ハクサンベッコウバエに一致します。本種は倉橋博士によってDryomyza melanacmeとして白山、立山、尾瀬などからの標本で記載されたものですが、Ozerovはヨーロッパから広く分布しているanalisと同一で、属もNeuroctenaにしています。なお、本掲示板のNo. 6616のLBaconさんのスレッドを見てください。Fallenのeにはアクサンテーギュがつきます。
もし、多数標本があるようでしたら、余分の個体をお送りいただければ幸いです。さらに同定の確認をしてみます。連絡先は本掲示板の管理者にお尋ねいただければわかると思います。
アノニモミイア様
懇切丁寧なご指導ありがとうございます。 あっという間にハエの正体が分かって嬉しいです。 >多数標本があるようでしたら、余分の個体をお送りいただければ幸いです。 ご親切な申し出に感謝します。 しかし採集したのはこの二匹だけです。 標本を作って保存する余力が今のところ無いため、残念ながら簡単な写真に撮った後は捨ててしまいました。 いくつか質問があります。 Q1: http://furumusi.aez.jp/wiki.cgi?%A5%D9%A5%C3%A5%B3%A5%A6%A5%D0%A5%A8%B2%CA 7 ハクサンベッコウバエ Dryomyza melanacme Kurahashi.1981 9 エゾベッコウバエ Neuroctena analis Fallen.1820 素人考えですけど、学名の変遷に従えば、和名もエゾベッコウバエに統一して使った方が良くないですか?
Q2:
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Neuroctena_anilis.jpg Neuroctena anilis? / Neuroctena analis? これは同属の別種ですか? それとも学名に表記の揺れがあるのでしょうか? Google scholarで検索すると、anilisが多数派のようです。 誰かのタイプミスや誤植が蔓延しているとか?
Q3:卵の形状について。
交尾していた♂♀ペアにひたすら注目して、まず動画と写真を撮り、直後に同一ペアを採集しました。 よろしければ、こちらのマクロ動画をご覧下さい。(1:51) http://www.youtube.com/watch?v=CoukGGQNyCE ♂にマウントされた♀が獣糞を舐めている様子が撮れました。 下痢便の表面に大量に浮いている白く薄い鱗片状の物体が気になっています。 No.6667で上の組写真にもピンボケで写っています。 これはハクサンベッコウバエの♀が産み付けた卵なのだろうか。 いわゆるベッコウバエも獣糞に止まって居たのですが、私が近づいたら逃げて下草に移動しました(添付写真)。 ハエの卵にしては見慣れない形状なんですけど、ベッコウバエ科の卵は独特の形状なんですか? それともハエとは無関係で、何か植物由来の落下物ですかね(花粉とか実?)。 質問は以上です。よろしくお願いします。
質問1:
倉橋博士(1981)はDryomyza melanacmeハクサンベッコウバエを本州中部の山地で記載されて、その原記載に示された特徴は、同博士(2000)が「はなあぶ」No.10に日本新記録としてされて北海道と本州妙高から記録されたNeuroctena analisエゾベッコウバエの写真(図版の説明はチシマベッコウバエとエゾベッコウバエが入れ違っている、aとbがエゾベッコウバエ;同誌12号で訂正されている)に完全に一致します。この辺りの事情は倉橋博士に尋ねてみないとわかりません。あなたの撮影された個体は上記倉橋博士のエゾベッコウバエの写真に完全に一致します。 事情はわかりませんが、「はなあぶ」の中ではエゾベッコウバエとハクサンベッコウバエの相違などについては全く触れられていません。 OzerovがD. melanacmeをD. analisの同物異名(シノニム)として初めて扱ったのは、極東ロシアの双翅類の総説のなかでして、これは2000年の発行になっています。倉橋博士がこのOzerovの総説を参照されたのちにD. analisを日本から記録されたのかどうかは、ご本人に確認しないとわかりませんが、両著の発行年が接しているので、あるいは参照されていなかったかもしれません。 それで、以上のいきさつは別にして、和名には学名のような先取権はありません。どちらを採用するかは、それぞれの著者の任意です。しかし、もし本当にハクサンベッコウバエとエゾベッコウバエが同一物であるのなら、地名由来の名称としてはいずれもあまり適当とは言えません。 さらに問題は、倉橋博士(1981)と同博士(2000)のハエは前著の記載と後著の写真が一致するので同一物である可能性がたかいのですが、もし両著とも2000年の論文の写真のようなものであるとすれば、これはヨーロッパのサイトに示されているN. analisまたはN. anilisの写真とは胸部の斑紋、腹部の色彩などを含めてかなり異なるものです。むしろ、ヨーロッパの個体は倉橋博士(1981)の記載されたN. badia (Kurahashi, 1981)に類似しています(触角の色彩は異なる)。 OzerovがなぜN. melanacmeをN. analisのシノニムにしたのかわかりませんし、また倉橋博士(2000)が写真の日本産の標本をN. analisに同定された根拠も示されていません。 ヨーロッパの標本と日本の標本について交尾器等の詳細な比較の上で決着すべきことだと思います(私の知らないところですでに決着が付いているのかもしれませんが)。 質問2: 確かanalisとanilisの二つの学名があります。北米の双翅目のカタログ(1965)やヨーロッパロシアの双翅類の検索表(1969)などではanilisが使われています。一方、旧北区のカタログ、英国の双翅目の目録(1976)、前述のロシア極東部の双翅目の総説(1984)、旧北区の双翅類のマニュアル(1998)(最後の2著を除いてすべて別著者)ではanalisが用いられています。しかもいずれの著書にも、異名ないし誤植名として相手の学名が挙げられていません。また、旧北区のマニュアルの中で、analisを用いているOzerovは本科の幼生期を扱ったSmith(1980)やBarnes (1984)の論文を参照していますが、これらの文献ではanilisが用いられています。このことから、Ozerovはanilisの学名を承知の上でanalisを用いているのでしょう。 なお、analisもanilisもいずれもFallen(1820)の論文の16ページに記載されたことが、北米および旧北区のカタログで示されていますので、同一原記載に基づく(同一物)ものでしょう。時には同一ページに2種以上記載されることもありますが、両方のカタログで相手の名称が挙げられていないことも、この両名は同一物であることを示しているでしょう。 私は原記載を見ていませんので、どちらという判定はできませんが、上記のとおり私が見た最近の著作ではanalisになっています。倉橋博士の日本からの記録でもanalisを使われています。 質問3: 動画見ました。貴重な生態映像だと思います。問題にされている白い物体はほとんど間違いなくベッコウバエ科のNeuroctena属の卵です。N. analisの卵は旧北区のマニュアルのOzerov(1998)によれば長さ約1.2-1.3mmで白く細長く、両側に卵本体の幅よりやや狭い翼が付いています(浮くための装置で、しばしば水面などに産卵する双翅類の卵に見られます)。これらの特徴はあなたがお尋ねになっている白い物体に一致します。同属のベッコウバエも一緒にいたようですから、どちらの卵かはわかりません。 一方、倉橋博士が記載された日本固有の大型のベッコウバエSteyskalomyza hasegawai Kurahashi, 1982トゲベッコウバエの卵は岩佐光啓博士(2002)によって図示されていますが(Medical Entomology and Zoology, 53, Suppl.2: 133-139)、N. analisの卵とは全く異なり、ショウジョウバエ科の卵のように短いバナナ型で卵本体とほぼ等長の2本の細長い呼吸突起を具えています。同博士によれば、Dryomyzaの卵も同様に2本の呼吸突起を具えているとのことです。
気晴らしに,久々に出てきました.
Diptera Sveciaeに掲載されてる,Fallenの原記載を拾ってきました.確かに,Dryomyza vetulaとD. anilisが記載されているようです. なお,文献の出展は,Biodiversity Heritage Libraryです.http://www.biodiversitylibrary.org/Default.aspx このデータベースには,WiedemannやMeigen, Latreille等,色々と古い原記載が多数収録されているのですが,ラテン語?等で書かれている為全く読めません(^_^;)
久しぶりに市毛さんのお元気な登場で喜んでいます。最近は専門外の双翅類で孤軍奮闘(?)していました。
Diptera Sveciaeありがとうございました。私も時折このサイトは利用しているのですが、書名で検索しても出てこなかったのであきらめていました。今度は著者名で検索したら当たりました。以前に北米の双翅類を多数記載したLoewのDiptera americae septentrionalis indigenaもここからpdfがとれました。オタワにいたころに本書はコピーしようと思ったのですが、大部なのでしないできましたが、このサイトで取れてよかったです。最近、北米のRhamphomyiaの仕事にエンジンがかかってどうしても参照しなければならなくなりました。 なお、Loewのタイプはハーバード大学のMuseum of Compararive Morphologyにあって、そこのタイプの画像がインターネットで見ることができます。MCZ type databaseです。 Neuroctena analis, anilisの問題はお陰様で、原記載はanilisであることがはっきりしましたが、それではどうして旧北区のカタログなどでanalisがつかわれているか、です。Die Fliegenでもanilisを使っています。 FliegenのNeuroctena anilisの記載を読んでみても、とても倉橋さんの「はなあぶ」に掲載された写真(このスレッドの生態写真と同種でしょう)には合いません。記載はまさにDiptera infoなどに出ているヨーロッパの写真に完全に一致します。おそらく、日本には真のanilis(またはanalis)は分布していなくて、N. melanacmeは独立種ではないでしょうか。本掲示板でも古田氏がN. analisを岐阜県で記録していますね。これも倉橋さんの写真で同定しているので、melanacmeでしょう。 投稿内容が専門的になってきましたので、文責もありますからハンドルネームは用いません。
回答解説して下さった皆様、どうもありがとうございました。
お礼が遅くなりましてすみません。 昨夜は飲み過ぎてヘロヘロになってしまいました。 名前に関して大体の事情は分かりました。 ややこしやー。門外漢にはとてもついていけません…。 少しお話を伺っただけで分類学者の大変さを垣間見れました。 特に学名のお話(analis/anilis)はミームの点突然変異がコミュニティ内に拡散していくメタファーのようで、無責任な外野は面白く(興味深く)思いました。 獣糞の水溜まりに浮く謎の物体の正体が判明したのが大きな収穫です。 水に浮くための装置を進化させているとは驚きでした(感動!)。 汚水でカメラを汚さないようスリル満点の撮影でした。 今度は求愛、交尾、産卵シーンを観察してみたいものです。 |
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