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ハエ目の図 投稿者:赤塚カケス 投稿日:2009/01/24(Sat) 21:15:27 No.5006
1.「ハエー人と蠅の関係を追うー」篠永哲著 八坂書房
2.「新版 日本の有害節足動物」 東海大学出版会
 を見るとすばらしく細密に描かれたハエの絵が収録されています(1番はカバー裏)。(左の写真は1番の本からデジカメで)

長時間でも見飽きない美しい絵です。

生物系の教育では、顕微鏡を見て正確にスケッチするトレーニングを受けるということを聞いたこともあり、この分野の方は概してスケッチは上手だと思います。ただ、上記の本に掲載されているスケッチは、抜群の上手さです。

ボタニカルアートという植物を描く分野がありますが、同様にこのような昆虫を描く特別な手法やテキストなどは存在してるのでしょうか?自分でも挑戦したくなって来ました。図鑑もこのような絵で出来たものがあれば手元においてじっくり眺めたいものです。鳥では外国の図鑑はイラストで描いてあるものが多く、そのような図鑑を集めたり見たりするのも楽しみの1つです。

もし昆虫の絵を描くヒントなどがあれば教えていただければ幸いです。

添付:5006.jpg (30KB)
Re: ハエ目の図 - アノニモミイア 2009/01/25(Sun) 00:39:07 No.5008
衛生害虫のハエや蚊の全形の墨絵の多くは,かつて神奈川県にあった米軍の衛生関係の研究所と関係のある職業的画家によって描かれたものである,と言うことを聞いたことがあります.かなり信憑性がありますが,この画がそのようなものの一つであると確信があるわけではありません.また,日本の昆虫学者がそのような画家に依頼して描かしたものかもしれません.

今,日本でこのような画を描く昆虫学者はほとんどいないでしょう.昨年逝去された蝶類研究家(非職業的)である五十嵐 邁さんはアゲハチョウ類の幼虫や蛹の詳細な着色図を描いています.例えば彼の著書の講談社発行の「世界のアゲハチョウ」にでている画の多くは彼が描いたものです(後年は専門の画家に依頼したので,これらの画のすべてを彼が描いたわけではありません).世界文化社発行の彼の絶筆,「アゲハ蝶の白地図」にも彼が晩年に描いたテングアゲハの蛹の図があります.この図はしかしやや衰えが見とれます.また,手代木求さんの「日本産蝶類幼虫.蛹図鑑」にも彼が描いた素晴らしい着色図があります.

現今の大学の昆虫学関係の研究室では,特に全形図の写生を指導するようなことはほとんどないでしょう.ただし,交尾器などの解剖部分の線画は必要ですから,教えたり,また学生が自主的に習熟して描くようになっています.このような形態図の描き方を解説した著書はありません.もうずいぶん前(60年近く前でしょう)に雑誌「新昆虫」の創刊頃の号(1,2巻頃だったでしょう)で,昆虫写真家の確か染井さんだったでしょうか,線画の書き方の解説をしたのがあったと記憶しています.昆虫の外骨格の骨化部(クチクラが厚く硬い部分)を白く抜いて,膜質部(クチクラが薄く柔軟に伸縮できる部分)を点を打って表現する形態図の描き方は,米国の昆虫形態学者Snodgrass(Principles of Insect Morphologyの著者)の手法に基本的には倣ったもので,この変形(凹凸の状況を輪郭より細い補助破線を用いて表現する画法,など)は九州大学で昭和35年頃に2名の研究生(白水先生とともにシジミチョウ科Zephyrus類の著名な研究者で故人)と院生(今は退職者)によってほぼ確立され,これが今多くの昆虫学者に踏襲されています.一方,しばしば見られるような凹凸や濃淡を点の密度で著す画法とはべつに,前述の形態図よりも多くの細線を用いて表現する写生画法は,大英博物館(自然史)(British Museum (Natural History),今のThe Natural History Museum)の昆虫画家Terziやその後継者Arthur Smithによって確立され,後者がAquatic Insects of Californiaで示している水生半翅類の多くの全形図はその最たるものです.この画法に従って描かれたものが,今は絶版になっている北隆館の日本昆虫分類図説第1集第3部半翅目・アメンボ科の全形図です.この図は前述の「院生」によって描かれたものです.手に入りにくい本ですが,もし,このような画に興味がおありでしたら図書館などで参照ください.

形態の画像については,一部では依然としてプレパラート標本を写真撮影しているのもあります.特に,日本鱗翅学会の「蝶と蛾」に掲載される論文の多くは最近特に写真になっています.ただ写真撮影をする場合は,Helicon Focusなどの焦点合成ソフトなどを使わない限り,対象が1平面的でないとピントのずれが起るので,結局立体構造を持っている交尾器などを平圧してスライド作成をすることになり,それによって本来的な形状がゆがめられる欠点があります.しかしまた逆に写真ですから,それによって示される客観的状態も表現される利点があります.

ご参考になるかどうかわかりませんが,あなたの質問へのお答えとします.


Re: ハエ目の図 - 茨城_市毛 2009/01/25(Sun) 07:59:12 No.5009
赤塚カケス様.

昆虫の描画については,下記のブログで紹介したことがあります.
http://dipterist.cocolog-nifty.com/syrphidae/2007/10/scientific_illu.html

このほかにも,"Scientific Illustration"等のキーワードで探すと,色々なHPがあります.

日本の場合,研究者が図まで全て書くのが一般的ですが,欧米では文章は研究者が書き,図は専門の画家が書くことも多いようです.大概,論文の謝辞に誰が描いたか記されていますし,図にサインが入っていることも良くあります.

先の図版については,アノニモミイア様が記されているように,伝説のアメリカ陸軍の406号研究室(Dep. Ent. 406th Medical Laboratory, U. S. Army)で描かれたものと思われます.Fauna Japonicaの謝辞にイラストレーターの名前が載っています.
一説では,1枚1週間とか1ヶ月掛かったとの話や,ものすごい高給取りだったとかの話もあります;^_^)

P.S. 確かに,本文と図を分担したほうが研究としては効率的ですが,見ると描くとでは形態に対しての観察の深さが異なるようです.
私のような素人の場合,見ているだけではわからなかったことが,描いて初めて気が付くことが多々あります.


Re: ハエ目の図 - 赤塚カケス 2009/01/25(Sun) 11:35:07 No.5011
アノニモミイア様
茨城_市毛様

とても詳しいレスをいただき有難うございます。
昆虫のイラストだけでもずいぶんと奥が深いのだなと、コメントを読んで感じました。

市毛様にご紹介いただいた
http://www.entomology.umn.edu/museum/links/5051.html
にアクセスすると、イラストの描き方のパワーポイントのテキスト(説明)が出てきてとても参考になります。

またその中で、テキストとして
The Guild Handbook of Scientific Illustration
が紹介してあり、この本をアマゾンで立ち読みしたら、非常に面白そうな本でした。

双翅目に興味をもったら、色々な新しい世界が増えてきて楽しいです。(仕事でも少し役に立ちそうで、講演の機会などで少しハエの話題を使おうと思っています)


Collecting and Preserving Insects and Mites - 赤塚カケス 2009/01/25(Sun) 21:45:46 No.5015
茨城_市毛様に教えていただいたイラストのサイトからパワーポイントの資料をダウンロードして、そこに掲載されている情報から、昆虫等の採集と整理のテキストにたどり着きました。

PDFで70ページ近いもので、一冊の本(英文)が無料でダウンロードできますので報告しておきます。

米国の農務省のサイトで
http://www.ars.usda.gov/Main/site_main.htm?docid=10141&page=1

Introductionのところから全文PDF版がダウンロード可能です。
本の名前は
Collecting and Preserving Insects and Mites: Tools and Techniques
です。

このサイトを頻繁にごらんになっている方はご存知の内容だとは思いますが、昆虫初心者の私には非常に参考になりそうなテキストです。

以上ご報告しておきます。


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