謹賀新年 オドリバエ初め 投稿者:茨城@市毛 投稿日:2007/01/08(Mon) 17:34 No.2895 茨城@市毛です。 皆様、今年もよろしくお願い致します。 年頭からオドリバエです。 出先で気まぐれに撮った標本写真ですので、あまり写りが良くないのですが、オドリバエ科は学名がつけられている種でも公表されている情報が少ないので、アノニモミイア様に少しでもコメントを頂ければ、色々な方の参考になるのではないかと思い撮影してきました。 青森の八甲田山で7月に採られた標本で、 Rhamphomyia(Eorhamphomyia) sapporensis Matsumura,1915と○○先生の同定ラベルが付いていました。その後の昆虫総目録ではCalorhamphomyia亜属に変更になったようです。 添付:2895.jpg (59KB) Re: 謹賀新年 オドリバエ初め - 茨城@市毛 2007/01/08(Mon) 17:35 No.2896
多少腹部を拡大してみました。 Re: 謹賀新年 オドリバエ初め - アノニモミイア 2007/01/09(Tue) 09:59 No.2899 写真の種はCalorhamphomyia亜属の1未記載種です.本種はR. (Calorhamphomyia) sappporensis Matsumura, 1915に酷似していまして,本種を得る前にはこれがsappporensisであろうと思っていたものです.これら2種は雄の後腿節が独特の曲がり方をしている点や,翅の翅脈の周囲が暗化する点などで他の種群から区別できます. R. sapporensisとの違いは雄では交尾器の尾角突起(cercal process)の後下端が短い突起状に伸びる(sapporensisでは発達しても,小さな弱い三角形状),同じく前基部の突起は左右のものがほぼ平行に伸びる(sapporensisでは外側を向くので,左右のものは先端に向かって離れる),また色彩については本種では一般に黒褐色(sappporensisでは赤褐色;本種でも地域によってはやや褐色化するので決定的ではない,ペニスの基半部が幅広く,その部分に鮫肌状の小棘を多数密生すること(sapporensisでは全長に亘って円筒状で表面は平滑);雌では後腿節の肥大が著しく(sapporensisでは弱く),後脛節の前腹面に数本の直立した細い棘(長さは脛節の幅の約1/3)を生じる(sapporensis箱のような直立棘を欠欠き,もし生じても細いもので,直立しない)等の点で区別できます. 本種は本州北部(青森県から長野県まで)の山地,特にブナ帯に多く,一方sapporensisは北海道西部(大雪山まで)と青森,秋田両県に分布しています(新潟県からsapporensisとして記録された(三枝,1979)のは誤同定で,交尾器の図も今回の未記載種).これら2県では同時に混生していますが,sapporensisの方が遥かに個体数がすくなく,北海道でもかなり稀な種です.発生期は共に6月から7月中旬です. 本種の雄はnuptial giftとして,大型のガガンボなどを用います. R. sapporensisが本州北部でどこまで南に分布しているのか興味あるところです. Re: 謹賀新年 オドリバエ初め - 茨城@市毛 2007/01/09(Tue) 22:35 No.2900 アノニモミイア様、毎回詳細なコメントありがとうございます。 三枝(1979)ではR. sapporensisとR. multicolorの関連についてシノニムかもしれないという推定で終わっていましたが、その後の昆虫総目録では別種と結論付けられたようです。R. multicolorとの相違点について御教授頂ければと思います。よろしくお願い致します。 Re: 謹賀新年 オドリバエ初め - アノニモミイア 2007/01/10(Wed) 10:10 No.2902 Rhamphomyia (Eorhamphomyia) multicolor Frey, 1952 (原記載のままの名称)はR. Freyによって,伊藤修四郎先生が送られた秋田県八幡平黒湯産の2雄2雌に基づいて記載されたものです(2♂2♀. Honsyn. Akita: Kuroyu 14.-15.VI. 1951. (F 85). leg. Syusiro Ito)[HonsynはHonsyuのFreyによる誤綴;(F. 85)は伊藤先生のFreyに送った送付番号]. 原記載の中で,Hypopyg schwarz oder rotgelbと示されており,秋田の個体では黒褐色のものは前便の未記載種,赤褐色のものはsapporensisですから,2種混同の可能性が高いわけです.しかし,Die Fliegen der Palaearktishen RegionのFreyが担当したRhamohomyiaの中に,multicolorの♂交尾器の図があり,これは明らかにsapporensisのものです.ですから,原記載ではないけれど,原記載者本人の著書に図があるので,これに基づいてmulticolorはsapporensisのシノニムであると暫定的には解釈していいところです.R. multicolorはSaigusa(1962)のCalorhamphomyia亜属の原記載のさいに,この亜属に含まれる種リストの中に加わっていなかったために,Catalogue of Palaearctic Diptera, vol. 6でもChvalaはこれを踏襲して,原記載のままEorhamphomyiaにリストアップしたあります. 以下は未発表資料であることをお断りしておきますが(ということは引用しないでいただきたいとご理解ください),Freyの記載した2♂2♀の標本はsapporensis1♂1♀,前便の未記載種1♂1♀でして,Die Fliegenに図示の標本はsapporensisの1♂のもので,しかもFreyはsapporensisの1♂1♀にタイプというラベルをつけています.レクトタイプの指定を含めてこのシノニム指定は,現在進行中の日本昆虫学会の「日本産昆虫目録」までに発表して,正式にmulticolorがsapporensisのシノニムであることをはっきりさせる必要があります.しかし,それまではリストの上ではmulticolorが生きています.しかし,実際の標本の同定にはsapporensis1種だけが記載されたものとし,写真の種は未記載種として扱うのが妥当だと考えます. なお,既刊の九州大学昆虫学教室刊行の「日本産昆虫総目録」2巻ではmulticolorがCalorhamphomyia亜属に含まれていますが,これはこの目の分担者と監修者の意見に基づくものと理解していいのではないでしょうか.この処置も前に書きましたように,リスト上では二つの名称 Rhamphomyia (Calorhamphomyia) sapporensis Matsumura, 1915 Rhamphomyia (Calorhamphomyia) multicolor Frey, 1952)の二つが現在は生きている,ということになります. 少し長くなりましたが,以上がsapporensisとmulticolorの関係です. Re: 謹賀新年 オドリバエ初め - 茨城@市毛 2007/01/10(Wed) 20:28 No.2903 アノニモミイア様。 やはり将来的にはシノニムになるのですね。思い切って尋ねて正解でした。ありがとうございました。 |